科学技術基本法改定案が2日の衆院本会議で採決され、日本共産党以外の賛成多数で可決されました。畑野君枝議員が1日の衆院科学技術特別委員会で反対討論に立ち、法案の目的にイノベーション創設の振興を加える改定は「基本法の性格を、産業に直結した成果を追求するものに根本的に変えるもの」と批判しました。
同委員会での質疑で、現行法が基礎研究の重要性に触れながら、施行後25年、基礎研究のレベルを引き上げる約束は果たされなかったと指摘。基礎研究のレベルをはかる論文数の推移について、竹本直一担当相は1995~97年に3939論文で4位だった順位が、15~17年は3927論文、9位に低下したと認め「論文数が少なくなってきているのは事実」と述べました。
畑野議員は、公的機関の研究開発費を95年度と17年度の比較で約217億円も減らし、科学技術関係費に占める競争的資金を倍増させるなど「選択と集中」政策の結果だと述べ、減らしてきた大学や公的機関への運営費交付金など、基盤的経費の抜本的増額こそ必要だと訴えました。
内閣府に設置される「科学技術・イノベーション推進事務局」について佐藤文一審議官は、従来の総合科学技術イノベーション会議と統合イノベーション戦略推進会議の事務局を両方担うことになると答弁。畑野氏は、「一体化で、学術研究のまっとうな発展を願う声が届かなくなる」「安倍政権の成長戦略にあわせトップダウンで科学技術政策を進めるもの」と批判しました。
軍事研究への総動員の仕組みとなると懸念する声を紹介し、大学や研究者の声を広く聞くべきだと求めました。
【議事録】
○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。 科学技術基本法等の一部改正案について伺います。 今回の科学技術基本法改正案に対し、研究者の皆さんから多くの懸念の声が寄せられています。それは、これまでの科学技術の振興に加え、イノベーションの創出を並列させているからです。 「大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム」運営委員会は、実用化と不可分なイノベーション創出を科学技術の振興と並んで位置づけることは、結果として科学技術をますます技術に引きつけて理解し、科学の独自性を軽視することにつながるという懸念が否定できないと指摘されています。 そこで、竹本直一大臣に伺います。 科学技術基本法改正案第二条第二項では、「科学技術の振興」と「研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の振興」が並んで位置づけられています。結果として科学の独自性が軽視されることになるのではないかと思いますが、いかがですか。
○竹本国務大臣 科学技術がイノベーションの創出のみならず学術的価値の創出その他の多様な意義を有することへは、十分留意をいたしております。学術研究と学術研究以外の研究の均衡のとれた推進が必要と考えております。 研究者の自主性の尊重その他の大学等における研究の特性への配慮について規定しているわけでございます。また、基礎研究の推進において国が果たす役割の重要性についても規定しているところであります。 今後とも、科学技術の水準の向上についてしっかりと取り組んでまいる所存であります。 したがって、イノベーションの創出を並べて掲げたからといって、科学技術そのものの研究が衰えるわけではもちろんありません。
○畑野委員 大臣、そうおっしゃられますけれども、そういう御答弁を伺っても、研究者の皆さんというのは、本当に信用できるのかということなんです。 それは、二十五年です、科学技術基本法が制定されてから。その間、政府の科学技術振興策はどうだったのか、多くの不信が積み重なっていると私は思います。 基本法の制定時に提案者がどう説明をしていたのか、その説明が今きちんと果たされていたのかどうかを、私、少し資料を示して検証したいと思います。 お手元の資料にございます。 現行基本法の第五条は、基礎研究の重要性について触れています。基本法の中心的提案者だった尾身幸次氏は、著書「科学技術立国論」の四十七ページで第五条の解説を次のように書いています。 資料をごらんください。 第五条において、特に基礎研究に触れ、その特性から見て、国及び地方公共団体という公共部門が、基礎研究の振興に果たす役割が大きいことを配慮すべきだとしている。基礎研究、応用研究、開発研究のバランスのとれた発展を目指す我が国にとって、まず第一の課題は基礎研究をこれまでにない大きな規模、高いレベルに引き上げることである、こう述べています。 尾身氏の第五条の解説で、まず第一の課題は基礎研究だと述べているんです。確認ですけれども、そのことで間違いないですね。
○松尾政府参考人 お答えいたします。 今委員御指摘のとおり、尾身幸次元議員の著書にそのように書かれてございます。御指摘のとおり、四十七ページに基礎研究の項目があり、今先生御指摘のとおりのことが記載されているということでございます。
○畑野委員 尾身氏はこの著書の二十八ページでは、今我々にとって、基礎研究を重点として科学技術全体のレベルアップを図っていくことが急務であるとも述べています。基礎研究を重点に振興し、それをもって新産業創出に寄与する科学技術立国をつくると説明されていました。 こういう説明を受けたわけですから、当時の研究者の皆さんは期待もされたし、我々も、対案を出し否決はされましたが、賛成をしてまいりました。 では、この基礎研究を重点として科学技術全体のレベルを図っていくという約束は守られたんでしょうか。まず、基礎研究は高いレベルに引き上がったのかということです。 資料の二枚目をごらんください。基礎研究のレベルをはかる指標は幾つかあるわけですが、引用度の高い論文数ではかるのが一般的だと伺っておりますので、分数カウント法による国・地域別のトップ一〇%補正論文数を引用させていただきました。 確認ですけれども、一九九五年から一九九七年の平均の日本の論文数と順位、そして、二〇一五年から二〇一七年の平均の日本の論文数と順位が載っております。ここに書かれていた数字でよろしいのか、確認ですが、よろしいですか。
○松尾政府参考人 この数字のとおりでございます。(畑野委員「読み上げてくれますか」と呼ぶ)トップ一〇%論文でよろしゅうございますか。(畑野委員「はい」と呼ぶ) 九五年から九七年でございますけれども、論文数全体におきまして、日本におきましては、三千九百三十九論文、シェアが五・九、そして順位が四位でございます。これは上位二十五カ国・地域でございます。 二〇一五年から二〇一七年におきましては、トップ一〇%補正論文につきましては、我が国は、中途で二〇〇五年―二〇〇七年も言いますと、これはふえておりまして、四千五百六報、シェアが四・八、五位でございます。 二〇一五年から二〇一七年、これは、三千九百二十七報、二・七%の九位ということでございます。 上下はあろうかと思います。
○畑野委員 つまり、振り返ってみると、基礎研究のレベル、順位は上がっていないんですね。むしろ、国際的な日本の地位は下がっています。基本法制定時は、第一の課題は基礎研究をこれまでにない大きな規模、高いレベルに引き上げると言っていたわけですが、その約束は果たされておりません。 竹本大臣、確認です。この間も伺いましたけれども、この基礎研究のレベルを上げるという約束、果たされたんでしょうか。いまだ果たされていないと私は思いますが、いかがですか。御認識を伺います。
○竹本国務大臣 トップ一〇%の数字は今御説明をしたとおりでございますが、考えてみますと、ノーベル賞を今世紀になってからとった人の数でいいますと、日本は十九名で、アメリカに次いで世界で第二位であります。ほとんどが基礎研究ですので、必ずしも基礎研究が極端に衰えたとは思っておりません。 ただ、論文数が非常に少なくなってきているのも実は事実なんです。だから、そこを我々は非常に危惧しておりまして、絶対、これをもっとたくさん、昔のような、四位でしたか、二十年前に、そういう状態には少なくとも持っていかなきゃいけないなとは自覚はいたしております。
○畑野委員 ノーベル賞受賞者の皆さんは、今から何十年も前の若いころの研究だ、これはもう今後続かないんじゃないかと心配しているのは、大臣も直接お話を伺っているとおりだと思います。 この論文数というのは海外との共著のものですから、これは国際的に通用する中身だというふうに伺っております。 先ほど御答弁があったように、重大なのは、途中、二〇〇五年から二〇〇七年に論文数はふえているんですけれども、そのままいくかと思ったらまた下がっちゃったということなんですよね。つまり、基礎研究の低下という事態が実は起こっている、この認識を共有しなくちゃいけないと思います。 では、なぜこういう質の高い論文数の低下が起きているのか。尾身氏は先ほどの著書の四十七ページでこうおっしゃっています。「基礎研究分野の飛躍的発展を図るためには、大学、国立試験研究所等政府及び地方公共団体による研究開発が強力に進められなければならない。基本法第五条は、こうした公的部門による基礎研究推進の重要性を明確にしたものである。」と解説されています。 では、大学と公的研究機関による研究開発がこの二十五年間に強力に進められたのかということです。 資料三枚目、つけさせていただきました。 伺います。総務省の科学技術研究調査報告は、日本の公的機関の研究開発の推移についてまとめています。科学技術基本法が成立した一九九五年と二〇一七年を比較した場合、公的機関の研究開発費はどのように推移していますか。
○松尾政府参考人 委員から配付いただいた資料にもございますとおり、総務省の科学技術研究調査報告によりますと、対象機関の一部に変動がございますので時系列を見るには注意が必要でございますけれども、この資料でいいますと、大学等を除く公的機関の研究開発費になってございますが、これの支出額につきましては、一九九五年度には約一兆三千九百億、二〇一七年度には約一兆三千七百億となってございます。これは大学等を除く公的機関ということでございます。 また、その間の変遷を見ますと、二〇〇〇年ころ、二〇〇九年ごろ、二〇一三年ころと支出額が上昇してございますけれども、これは政府研究開発投資の増減の時期の傾向ともおおむね一致するというものでございます。 なお、二〇一七年以降につきましては、政府の科学技術関係予算、大幅な増額に努めてきているところでありまして、この第五期期間中、しっかりと対応していきたいというふうに思ってございます。
○畑野委員 今、最後におっしゃったのは、計算の違いですから。計算の仕方が違ったということですから、私は二〇一七年との比較をお聞きいたしました。 お話にありましたように、一九九五年度で約一兆三千九百億円だったのが、二〇一七年では一兆三千六百八十三億円、約二百十七億円減少しているということです。つまり、強力に推進するどころか、減っているんです。弱められているんです。これでは論文数は伸びるはずはありません。基礎研究のレベルも上がるはずがありません。 そこで、その次の資料をつけさせていただきました。これは確認です。政府の科学技術関係予算はどうなっているかという資料です。一九九六年、第一期科学技術基本計画が始まった年と、第五期科学技術基本計画が始まった中での一番最新の資料、二〇一七年の当初予算と、そのうちの競争的資金の割合を伺いたいと思います。競争的資金は一番右のところに載っております。お願いします。
○松尾政府参考人 先生の資料のとおりであろうかと思いますけれども、第一期におきましては九六年から二〇〇〇年までということでございます。おおむね七、八%ということでございます。 また、二期、三期、四期、五期でございますが、五期は……(畑野委員「全部、いいんです。ごめんなさい、もう一回。ちょっと聞き方が悪かった」と呼ぶ)
○畑野委員 済みません。もう一回、聞き直させていただきます。 一九九六年と二〇一七年の当初予算と、それから、一番右に載っている競争的資金の割合を教えてください。
○松尾政府参考人 読み上げさせていただきます。 一九九六年、当初予算二兆八千百五億、そして、パーセントは六%でございます。二〇一七年は、三兆四千八百六十八億、一二・三%ということでございます。
○畑野委員 競争的資金のパーセント、言っていただいたのですが、金額もそれぞれ言っていただけますか。
○松尾政府参考人 金額は、一九九六年度、一千六百九十九億、二〇一七年度、四千二百七十九億というふうになってございます。
○畑野委員 御説明いただきました。 つまり、最初の科学技術基本計画が策定された一九九六年当時は、全体二兆八千百五億円のうち、競争的資金は千六百九十九億円の六・〇%という状況だったんです。二〇一七年度は、科学技術関係経費は三兆四千八百六十八億円になっているんですが、競争的資金は四千二百七十九億円で、一二・三%になっている。つまり、競争的資金の割合が倍増しているということです。科学技術関係予算は六千七百六十三億円ふえているんです。 私は、この間、繰り返し、国立大学などの基盤的経費、運営費交付金が、法人化後、千四百億円以上削減されたということを問題にして、もとに戻すことを求めてきたんです。そのときに政府は何と言ったかといったら、予算が限られていますと言いわけしてきたんです。でも、科学技術関係予算はふやしているんですね。予算がないんじゃない、予算の配分は間違ってきたということだと思いますよ。 基盤的経費を減らして競争的資金を倍増する、こういうのを選択と集中というんです。こういうことを強めるから基礎研究のレベルが下がっているのではありませんか。 幾つか数字を大臣に知っていただきたいということで、資料を含めて政府から御答弁をいただきました。 大学フォーラムは、慎重審議を求めるお願いで次のように述べられています。ぜひ、私たちは聞く必要があると思います。 日本におけるいわゆる「研究力」の低下、とりわけ基礎研究の置かれている困難は、当事者である研究者のみならず、幅広い社会的な関心を集め、そのゆくえについての危機感を生んでいる。その原因についても、大方の認識は一致している。1安定的な研究環境を保障すべき基盤的経費(国立大学においては運営費交付金)を削減して競争的研究資金に比重を移す政策がとられてきたこと、2その結果として、競争的研究資金に依存した不安定な任期つき雇用がとくに若手研究者のあいだで広がり、競争的研究資金の獲得を意識した研究生活を強いられていること、3その結果として、「出口」を想定しない基礎研究、長期的視野をもった研究にじっくり取り組むことが困難になっていること、などである。 私は、これは本当に大事な指摘だと読ませていただいて思いました。 そこで、竹本大臣に伺いたいんですが、最初の私の質問への御答弁の中で、科学技術の振興、これはやっていくんだとおっしゃっておられましたが、であるならば、二十五年間振り返りました、先ほど数字も持って。選択と集中政策によって国立大学や公的機関の運営費交付金を減らしてきたことを深く反省していただきたいと思うんです。今度は抜本的に増額するとおっしゃるべきだと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○竹本国務大臣 科学技術イノベーションをめぐって各国が覇権争いを繰り広げている中、例えば注目度の高い論文における日本の順位の低下など、日本の研究力が相対的に低下しているとの御指摘は十分承知をしております。 他方、まず事実関係として、国立大学及び国立研究開発法人の運営費交付金は、厳しい財政事情の中でも近年減額をしていない。国立大学については、法人化以降、減少傾向にしばらくありましたが、平成二十七年度以降は対前年度同額程度、国立研究開発法人については、平成二十八年度以降は対前年度増額を確保しております。 政府としては、第五期科学技術基本計画等に基づき、科学技術イノベーションの基礎的な力の強化に向けて、大学等における研究活動を安定的、継続的に支える運営費交付金等の基盤的経費と、すぐれた研究や目的を特定した研究等を支援する公募型資金の最適な配分を考慮し、研究資金全体の効果的、効率的な運用を図ることが重要であると考えております。今後とも、基盤的経費と公募型研究資金のバランスを配慮しながら、研究力のV字回復を図ってまいりたいと思っております。 基礎的研究を決して軽視しているものではさらさらありませんが、途中の、先ほどの冒頭の御説明にありましたいろいろ数字の変化は、当時の経済社会情勢も大きく影響しているところもあるとは思います。
○畑野委員 経済的、社会的変化はすさまじいんですよ。大臣おっしゃったように、国際的な競争が高まって。そういうときに、もっとやろうというときにやられていないということが問題だということは、大臣も御認識いただけると思うんですね。 それで、国立大学の法人化に基づく千四百億円の減については、私も国会で議論しましたよ。大論争でしたよ。そして、ずっと下がってきたのが、今、とりあえず、みんなの力でこれ以上下げるのをとめているだけなんですよ。だから、もとに戻しなさいということを言っている。当たり前のことじゃありませんか。 そこの御認識はもう一回文科省にも聞いていただいて、必要であればまた議論したいと思いますが、そういう到達点だということを私は申し上げておきたいと思います。 それで、バランスというのでは信用ならないんですよ。これだけ基礎研究が追いやられてきたんだから、全然ふえていないんだから、減っているんだから。 それで、二〇一六年十一月十七日に、文科省の科学技術・学術審議会学術分科会が会長声明を発表しています。これも本当に大事な話なんですね。大隅良典博士がノーベル生理学・医学賞を受賞したことを祝して出されたんですが、この声明の中で、日本の学術研究の危機的状況について、次のように述べられています。 個々の研究者に目を向けると、さまざまな制約のもと、研究時間が減少する中で、短期的な成果を上げることを急いだり、すぐに役立つかどうかに過度にとらわれたりする反面、長期的な展望を持ち、未踏の領域への大胆な挑戦が少なくなってきていることが危惧されます。基礎科学力を強化するため、応用科学、開発研究に偏ることなく、個人の多様で独創的な研究を支えている科研費や、未来を担っていく博士課程の学生やポスドクなど若手研究者への支援、大学等の研究機関を支える運営費交付金、私学助成等の基盤的経費など、学術研究、基礎研究の振興策への重点投資が必須だと考えます。 先ほど御紹介されていた基本法制定時の、第一の課題は基礎研究をこれまでにない大きな規模、高いレベルに引き上げるという約束が果たされていたら、私はこういう説明を出す必要はなかったと思います。 選択と集中政策について、私も言いましたけれども、そこへの反省のお言葉はなかったと思います。幾ら科学技術の振興が軽視されるようなことはないと御答弁されても、この二十五年間の実態を振り返るならば、本当に信用できるのか、できないということになると思うんですね。 基本法を改正して、振興策の柱にイノベーションの創出を据えるならば、イノベーションの創出につながらない基礎研究への振興が更に弱められるのではないか、その疑念は、私は拭うことはできません。基本法制定時の原点にぜひ戻っていただいて、大学、公的研究機関の運営費交付金を抜本的にふやす、私学助成をふやす、そのことを重ねて強調しておきたいと思います。 次に、伺います。 改正案が振興策に沿って活動する責務を大学などに課すとしていることは、大学などの自主性、自律性を損なう危険があるのではないかという懸念が強まっています。法案第六条は、研究開発法人と大学に責務を課し、振興方針にのっとり、科学技術の進展及び社会の要請に的確に対応することが求められています。 安倍政権は、二〇二五年までに大学、国立研究開発法人に対する企業の投資をOECD諸国平均の水準を超える二〇一四年度の三倍にすることを目標に掲げています。 そこで、大臣に伺いますけれども、例えば、こういう目標を振興策に盛り込んで、基本法として法的にその目標を達成する責務を課すとなれば、大学などの自主性や自律性を損なうことになるのではありませんか。大臣、いかがですか。
○竹本国務大臣 御指摘のとおり、科学技術の進展それから社会の要請への対応についてはこの法案では言及しておりますけれども、あくまでも大学等の自主的かつ計画的な取組を努力義務として定めたものであり、大学の自主性に配慮した規定でございます。 また、現行の科学技術基本法では、研究者等の自主性の尊重その他の大学等における研究の特性への配慮についても規定いたしております。改正法案でも、引き続き、もちろん規定しております。 したがいまして、政府目標といいますか、そういう大きい、三倍ですか、そういう目標を掲げたからといって、研究テーマに大きく影響を与えるものではないと私は考えております。
○畑野委員 今回の基本法改正の具体的な検討が行われた総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会制度課題ワーキンググループでは、二〇二五年までに大学、国立研究開発法人に対する企業の投資を二〇一四年度の三倍にする目標について検討し、「現在の伸び率のままでは目標達成も難しい状況であり、更なる活性化を促す方策が必要である。」ここまで書かれているんですね。 しかし、ワーキンググループの議事録を読むと、目標達成の目玉政策として大学、国研の外部化が打ち出されて、当時はベルギーのIMECのような大規模研究拠点を外部化することを構想していた、検討会に大学や国立研究機関の方を招いて話を聞いたが、かみ合わなかったというんです。そのことを、座長の上山隆大氏は、第五回制度課題ワーキンググループで次のようにお話しになっています。「それこそIMECのようなものを具体的に動くような法人みたいなことも考えていたんですが、これはむしろ現場のニーズが具体的に今すぐあるのかというと、このワーキングでやったヒアリングでは、」「なかなか出てこなかったと。」 つまり、大学、国研の外部化というのは、大学や国研が要求しているものではないんです。経団連、「Society5.0の実現に向けた「戦略」と「創発」への転換」で、出島組織の設置という表現で打ち出したものです。大学の現状を無視して、科学的な根拠もない目標を思いつきのような手段で達成させようと法改正で押しつけるようなことは、大学の自主性、自律性を損なうやり方であって、やめるべきだと重ねて私は申し上げておきます。 次に、改正案がこれまで振興対象から除いていた人文・社会科学を対象とすることにも懸念があります。 人文・社会科学がイノベーション創出の手段とされるなら、現在の人間と社会のあり方を相対化し批判的に省察するという人文・社会科学の独自の役割は損なわれるのではないかと思いますが、どのようにお考えですか。
○松尾政府参考人 恐縮でございます。答弁させていただきます。 今回、人文科学のみに係る科学技術を追加させていただきますけれども、これにつきましては、社会の情勢の変化、それから、深くやはり人間を知るということがこれから非常に重要になってくるということで追加をさせていただきます。社会に合わせるということでございます。 一方で、人文が加わることによりまして、その分野の特性を踏まえてということもきちっと明確に記載をしておりますし、さまざまな注意を払っているということでございます。 また、人文科学の推進方策でございますけれども、人文科学につきましては、従来から、文科省において、例えば科研費等を用いて研究者の自由な発想に基づく研究活動を中心に振興してきているところであり、これらに加えまして、次期基本計画の検討にあわせて、社会課題解決の観点も含めて、戦略的かつ総合的な振興を検討してまいりたいというふうに思ってございます。
○畑野委員 予算がつかないと振興になりません。 人文・社会科学自体の持続的振興が必要ということはどういうことかということなんですが、人文・社会科学の研究者は私立大学に勤務している方が多いんです。人文科学の本務教員数は二万二千九百八十一人ですが、そのうち私立大学に勤務しているのは一万六千百八十六人、七〇%です。社会科学の本務教員は二万三千八百五十二人で、私立大学に勤務しているのは一万七千百二十人で、七二%です。 兼務教員も同じように、人文科学が八五%、社会科学も八三%が私立大学に勤務しています。兼務教員、つまり、非常勤講師が多いということなんです。 ですから、首都圏大学非常勤講師組合の調査によりますと、年収二百万円以下の非常勤講師は六九%だということです。ここにメスを入れて待遇を抜本的に改善しなければ、人文・社会科学自体の持続的な発展はあり得ないということで、私は、私立大学の私学の助成の増額、とりわけ非常勤講師の単価引上げが必要だということも、重ねて、答弁は求めませんが、申し上げておきたいと思います。 次に、司令塔の問題です。 法案は、科学技術イノベーションに関する司令塔機能の強化として、内閣府設置法を改正し、科学技術・イノベーション推進事務局を設置します。 伺いますけれども、これは、総合科学技術・イノベーション会議、CSTIの事務局、それから統合イノベーション戦略推進会議の事務局とどのような関係になるんですか。
○佐藤政府参考人 お答えいたします。 現行法におきましては、総合科学技術・イノベーション会議、CSTIでございますけれども、の事務局は、内閣府に置かれた政策統括官が担ってございます。また、統合イノベーション戦略推進会議の事務局は、内閣官房に置かれたイノベーション推進室が担ってございます。 今般の改正法案では、内閣府に新たに科学技術・イノベーション推進事務局を設置することとしておりますけれども、新たな事務局が設置された場合には、同事務局が、総合科学技術・イノベーション会議、CSTI及び統合イノベーション戦略推進会議、両方の事務局を担うこととしてございます。
○畑野委員 重大な御答弁をいただきました。これは法案を読んでもわからないんですよね。 それでは、重ねて聞きますけれども、科学技術基本計画の策定に関する事務が文部科学省から内閣府に移されたのはいつですか。
○佐藤政府参考人 お答えいたします。 平成二十六年の通常国会で成立した内閣府設置法の一部を改正する法案が同年五月に施行されておりまして、科学技術基本計画の策定及び推進に関する事務が、文部科学省からこの時点で内閣府に移管されてございます。
○畑野委員 CSTIが関与した第五期科学技術基本計画が、我が国を世界で最もイノベーションに適した国にすることを掲げて、翌年の科学技術イノベーション総合戦略二〇一七では、基本計画の策定に関して、科学技術イノベーション官民投資イニシアチブの着実な実行を重点事項として掲げました。イノベーション政策と科学技術基本計画を同じところがつくるんだから、科学技術の振興が成長戦略に従属される、こういうことは明らかだと思います。 二〇一八年に内閣総理大臣決裁で誕生した統合イノベーション戦略推進会議は、イノベーション関連の司令塔機能を強化するために、イノベーションに関連の強いCSTI、IT本部、知財本部、健康・医療本部、宇宙本部、海洋本部を束ねる全大臣で構成する会議ということになっております。ですから、先ほど言ったような、兼ねるというふうになれば、学術研究の真っ当な発展を願う声はどうなるんですか。ますます届かなくなる。これまでにも増して、科学技術がイノベーション政策の道具にされるということになるんじゃありませんか。 私は、日本学術会議の「第六期科学技術基本計画に向けての提言」はとても大事だと思って読ませていただいたので、紹介したいと思います。 日本の研究力低下の問題の本質は何かと問いかけ、運営費交付金の削減など公的研究投資の少なさが基礎研究に取り組む環境を急速に劣化させていること、その一方で、選択と集中、戦略的、トップダウン型の競争的資金の拡充で短期的で直接的な成果を求められ、長期的な予算の裏づけが伴わない競争的研究資金では若手研究者の安定雇用も困難だと指摘しています。 先ほどからもういろいろな方が、大臣もお認めになりましたけれども、みんな言っているんです。法改正によって科学技術イノベーションに関する司令塔の機能が強化されたら、こういった声がますます届かなくなるんじゃないか、そういう懸念の声が出るのは当然だと思います。 私、最後に大臣に、これは御所見で結構です。ぜひ、こういう、先ほどアカデミアの問題について私と全く逆の質問をされた方がいますけれども、私は、科学技術の発展のために、アカデミアの皆さんの声を本当に総結集することが大事だというふうに思っております。 日本科学者会議の皆さんは、日米同盟下での軍事研究への総動員の仕組みとなる懸念があるといって、この法案の三条に懸念の声を上げておられますが、同時に、基本計画の策定に当たってはアカデミアの意見を尊重するべきだ、総合科学技術・イノベーション会議の議を経るのみならず、日本学術会議など科学アカデミアの意見の聴取や尊重を規定する必要があるというふうに述べられております。日本学術会議自身が、聞いてほしいと。この間、繰り返し言ってきたとおりです。 また、大学院生有志団体チェンジ・アカデミアも、若手研究者、大学院生の声を今度の法案の作成過程で、あるいは基本計画で聞いてほしいと言っております。先ほど大学院生の話がありましたけれども、全国大学院生協議会は、もう豊富な資料を集めています。 こういう声をしっかりと聞くべきじゃありませんか。
○竹本国務大臣 先生おっしゃる、アカデミアの声を聞くべきだ、まさにそのとおりで、大賛成でございます。十分聞けていないと言ってもいいのではないかと私は思っております。 結局、現実を見ますと、大学で研究をいたしておりますと、学生であると同時に研究者ですよね、ポスドクなんか。そうすると、特定の先生についていると月一万円ぐらいの人もいるんです。それでは生活できないですよね。だから、外部資金を取り入れて、月十万から二十万ぐらい、手当というか入ってくる人もいるんですけれども、そういう工夫も一つはできるし、またやるべきだと思いますが、それよりも大事なのは、アカデミアに対する産業界の評価及び態度を変えていかないといけないと思っております。 まず、評価を変えなきゃいけないというのは、アカデミアで発明した産品といいますか成果に対して、日本の産業界というか、多分、医薬品業界ですけれども、非常に低い評価しか与えていない、特許で見ましても二十分の一ぐらいしか与えていない、これが一つの問題であります。 そして、なぜ修士だけで企業に就職する人が多いかというと、企業がドクターを、ポスドクを採らないからなんです。そこも産業界も反省していかなきゃいけない。産業界とアカデミアは共存共栄じゃなきゃいけない、そういうふうに思っております。
○畑野委員 最後に、アカデミアのやはり自由な、独創的な研究そのものが社会全体の前進になる、新型コロナウイルス感染症で苦しむ若手の研究者、院生を含めても支援をしていただくことが必要だということを強く申し上げて、私の質問を終わります。 ありがとうございました。
【反対討論】
○畑野委員 私は、日本共産党を代表して、科学技術基本法等の一部改正案に反対の討論を行います。 本法案は、現行法の科学技術の振興と並べてイノベーション創出の振興を目的に書き込み、科学技術政策の柱に据えています。これは、基本法の性格をより産業に直結した成果を追求するものに根本的に変えようというものです。 現行基本法は、第十条で、「多様な研究開発の均衡のとれた推進に必要な施策を講ずる」としています。 ところが、政府は、この二十五年間、目先の経済的利益につながる研究に集中投資するための選択と集中政策で競争的資金の割合をふやす一方、公的研究機関の研究開発費を減らしてきました。その結果、研究力の低下と言われる深刻な事態を招いているのです。 二〇〇一年に科学技術政策を内閣府が所管するようになり、第四期科学技術基本計画で科学技術とイノベーション政策の一体的展開が打ち出されてきました。 今回の改正によって、科学技術を政府の経済政策の道具として活用しようという傾向はますます強まっていくことは明らかです。 法案が、大学等に振興方針に沿って活動する責務を課すことも問題です。安倍政権は、大学などに、企業からの投資を二〇二五年までに三倍増にする目標を押しつけています。こうした目標の達成が責務とされれば、大学は、企業からの投資をふやすため、企業が望む研究課題を優先せざるを得ず、すぐに成果の出ない基礎研究は後景に押しやられかねません。ましてや、軍事研究への動員などあってはなりません。 法案は、振興の対象に人文・社会科学を加えますが、イノベーション創出の振興が重視されるもとでは、現在の人間と社会のあり方を相対化し批判的に省察するという人文・社会科学の独自の役割が軽視されかねません。 内閣府に設置される科学技術・イノベーション推進事務局は、CSTIと統合イノベーション戦略推進会議の事務局を兼ねることになります。事務局を一体化することで、これまで以上に、安倍政権の成長戦略、イノベーション政策に合わせ、トップダウンで科学技術政策を進めようとするものにほかなりません。 研究力の低下が叫ばれる今、必要なことは、大学や公的研究機関の基盤的経費を抜本的に増額し、学術全体への振興を強めることです。それなしには、新たな知識を生かした文化的、経済的、社会的、公共的な価値の創出を望むことはできないということを強調し、討論を終わります。