民法改正案を可決

畑野氏 消費者保護で前進

 衆院法務委員会は12日、政府提出の民法改正案を賛成多数で可決しました。同法制定以来、債権に関する規定の改正は約120年ぶり。日本共産党は、不十分な点はあるものの、消費者や保証人の保護を前進させる規定の明文化などを理由に賛成しました。

 日本共産党の畑野君枝議員は質疑の中で、消費者の意に反する契約の無効化など、契約内容を規定した「定型約款」が初めて設けられると強調。法務省の小川秀樹民事局長は、宅配便や電気供給、インターネット物品購入などの契約が該当すると答えました。

 第三者による連帯保証(第三者保証)に関し畑野氏は、保証人への丁寧な意思確認を要求。公証人が直接本人に意思確認し、保証契約の締結前に数日間の熟慮期間が必要だと求め、法務省は「適切な時期に公証事務に関する通達を発するなど、万全の体制を整えたい」と答えました。

 さらに畑野氏は、事業主の債務保証を配偶者が行う場合、公証人の意思確認も不要となる問題を指摘。同省は、配偶者が保証人になるには現に事業に従事している必要があり、書類上の形式的な「従業員」では足りないとし、「個々の事業などの実態を踏まえ判断する」と答弁しました。

 畑野氏は、消費者の知識不足から過大な利益を得る「暴利行為」の防止など、重要な点が明文化されなかったとし、今後も検討を続けるよう主張しました。

(2017年4月13日付 しんぶん赤旗より転載)

 

【会議録】

〇畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。民法債権関係改正案について質問をいたします。この民法の審議を終局させて共謀罪の委員会審議入りを行おうとすることなどは、断じて許されません。引き続く民法の審議、続いて刑法の審議入りを行うべきだということを申し上げまして、質問に入ります。

 損害賠償請求権について伺います。私は、当委員会で、米兵犯罪に関して損害賠償請求権について伺いました。裁判所の確定判決の額には弁護士費用、遅延損害金が含まれるという法務省の答弁がありました。  そこで、きょうは、中間利息の控除について伺います。不法行為を受けた被害者の中には、重大な後遺症を発症された方もおられます。中間利息控除に用いる法定利率は、その損害賠償の請求権が生じた時点だとされています。今回の法案にも、第四百十七条の二に中間利息の控除の規定が新設されています。  そこで伺いますが、後遺障害に係る損害賠償について、中間利息控除を算定する基準となるときは症状固定時とするのが実務の例としては一般的だと聞いております。この点について、今回の改正が今までの実務に影響を与えるということはないのでしょうか。

〇小川政府参考人 お答えいたします。中間利息の控除といいますのは、交通事故などの不法行為などの損害賠償の額の算定に当たりまして、将来の逸失利益などを現在価値に換算するために、損害賠償算定の基準時から将来利益を得られたであろう時点までの利息相当額、これを中間利息というわけですが、その中間利息を控除することをいいます。御指摘の中間利息控除の算定の始期でございますが、この点につきましては、具体的には、後遺障害に係る逸失利益の発生期間の始期をいうものと認識しておりまして、それがいつであるのかについては、御指摘がございましたとおり、症状固定時とするのが実務の大勢であります。ただ、なお異なる見解もあるものと承知をしております。  

 改正法案四百十七条の二と、これを準用いたします不法行為に関する七百二十二条の第一項では、この中間利息控除に関して新たなルールを設けておりますが、これは、中間利息を控除する際には法定利率によるという判例の法理を明文化いたしますとともに、法定利率の変動制を今回導入いたしましたので、そのことに伴いまして、どの時点の法定利率を中間利息控除に用いるのかについて、新たにその基準時を定めておく必要があるということで、交通事故があった時点などの損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率を適用することとしたものでございます。したがいまして、御指摘いただきましたような、中間利息控除の算定の始期を含めました現在の実務における解釈には影響を及ぼすものではないというふうに認識しております。

〇畑野委員 次に、定型約款について伺います。当委員会では、UR賃貸住宅契約など大規模住宅の賃貸は定型約款に当たるかどうかという私の質問に対して、法務省は、個別事情により、例外的にひな形が定型約款に該当することがあり得ると答弁いたしました。定型約款に当たるか否かは、消費者、事業者にとって重大な問題です。法務省として、この国会審議の場で何らかの具体例を示すことが必要ではないかと思いますが、いかがですか。

〇小川政府参考人 お答えいたします。御指摘ありましたように、改正法案では、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」、これを定型取引と定義しました上で、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」、これを定型約款と呼んでおります。  この定型取引に該当する取引は、画一的な内容であることが合理的であると客観的にも評価することができるものであるため、取引の相手方であります顧客は契約の細かな内容には関心を持つことがなく、その内容を認識しないままに契約を締結するのが通常であるものと想定されます。  

 したがいまして、一般的に言えば、事業者が極めて多数の顧客を相手に契約を締結するような取引であり、かつ、取引を円滑に行う観点から契約条項を事前に事業者が作成しておくような取引が該当するものと考えられます。これが一般論でございます。そこで、このような定型約款の、できる限り身近な具体例を申し上げたいと思いますが、典型的には、例えば鉄道の運送取引における運送約款、あるいは宅配便契約における契約約款、パソコンのワープロソフトの購入契約に附帯する購入約款、電気供給契約における電気供給約款、それから保険取引における保険約款など、あるいはインターネットを通じました物品売買なども最近多うございますが、そういったものに関する購入約款など、これらが広く該当すると考えられるところでございます。

〇畑野委員 少し具体的な話をしていただいたんですが、こういったことの該当性について具体的に議論を尽くしていくことが私は必要だと思います。  次に、保証問題について伺います。第三者保証については、公証人による意思確認をすれば保証契約を締結できる点で、なお断ることができないという情義に基づく保証を排除することはできないという指摘があります。  きょうは、資料として、金融庁の「個人連帯保証に関する監督指針の改正について」、二〇一一年七月十四日施行を配らせていただきました。  

 金融庁に伺いますが、金融庁が監督指針、ガイドラインでなぜ経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とするのか、具体例を示して御説明ください。

〇栗田政府参考人 お答え申し上げます。金融庁におきましては、平成二十三年七月に監督指針を改正いたしまして、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」を明記したところでございます。  この監督指針の改正の経緯につきましては、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないというような状況の中で、直接的に経営責任のない第三者に対しまして債務者と同等の保証債務を負わせることが適当なのかという御指摘、あるいは、保証債務の履行時における保証人に対する対応いかんによっては、経営者としての再起を図るチャンスを失わせたり、あるいは、社会生活を営む基盤すら失わせられるといった問題を生じさせているのではないかという御指摘がございまして、そういう点なども踏まえまして、監督指針の改定を行ったところでございます。

〇畑野委員 金融庁からの御説明でしたが、そうであれば、保証人の意思確認は本当に丁寧に行う必要があります。公証人による第三者保証の意思確認については、それが形式的なものになれば公正証書作成による強制執行のリスクが高まり、保証人保護に反することになる、このような公正証書の乱用による保証人に対する取り立て、被害を防止することが必要だと思うんです。公証人の面前で保証意思の確認を行い、さらに公正証書をもって保証契約を締結する場合、保証契約の締結に先立ち、保証の意思確認と、数日の期間を置き熟慮する機会を与えるべきではないかと思いますが、いかがですか。

〇小川政府参考人 お答えいたします。改正法案では、事業のために負担した貸し金等債務に関しまして、保証人になろうとする者は、保証契約を締結する前に、公証役場に赴いて保証意思宣明公正証書の作成を嘱託することとしておりまして、保証意思宣明公正証書は、保証契約締結日前一カ月以内に作成される必要がございます。他方、保証意思宣明公正証書の作成後でありますと、その公正証書が作成された当日でありましても、執行認諾文言つきの保証契約公正証書などが作成されることは否定されておりません。  

 しかし、保証意思確認のための公正証書は、保証人本人がみずから公証人に直接口頭で必要な事項について述べることなどが法律上要求されるため、公証役場への出頭が必要でございます。したがいまして、保証人の意思確認のための公正証書を作成する際には、公証人が直接保証人本人に対してその意思を確認するということになります。このように、法の改正後は、公証人において保証人になろうとする者の意思確認を厳密に行うことによりまして、これまで以上の保証人の保護を可能とするものと考えられます。  これに加え、さらに委員御指摘の熟慮期間を設けることにつきましては、保証人になろうとする者が要する手間の点なども考慮いたしますと、相当ではないものと考えられます。もっとも、今後また、実務の運用などについていろいろと検討した上で、適切な時期に公証事務に関する通達を発出するなどして、万全の体制で施行を迎えられるよう準備を整えたいというふうに考えております。

〇畑野委員 今お話がありましたが、熟慮期間というのは、保証意思の確認にとって必要な制度で、これを、具体的に進めるときにきちっととれるようにするべきだというふうに申し上げておきます。  配偶者保証について伺います。  委員会で議論になりました。最も保証を断ることができないという情義的な保証がなされると指摘されているのが配偶者保証の問題です。個人事業者の事業に従事する配偶者について公正証書の作成が必要ないとされている規定があります。配偶者の保証は、断ることができない情義的な保証の典型例であるという御認識はありますか。

〇小川政府参考人 お答えいたします。  御指摘の主債務者の配偶者につきましては、法制審議会の審議などにおきましても、個人的情義などから保証人となることが多いという指摘がされておりまして、そういった類型のものというふうに認識しているところでございます。

〇畑野委員 そこで、金融庁に伺います。先ほどお配りした資料には、中ほどに「経営者に準ずる者」というのがございまして、そこには、「事業に従事する配偶者」の例が記載されています。事業に従事する配偶者とはどのようなものをいうのか、具体的に説明をしてください。現場ではどのような対応がされているのか、この点も伺います。

〇栗田政府参考人 お答え申し上げます。  監督指針におきましては、個人連帯保証を求めないこととする原則の例外の一つといたしまして、「事業に従事する配偶者」というものを規定しております。これは、事業に従事しておられる配偶者であれば、その事業の状況等を把握することは十分に可能であるという考えに基づくものでございます。具体的に、事業に従事する配偶者とは、保証契約の締結時におきまして実際に事業に従事している配偶者のことを指しておりまして、例えば夫が経営する事務所において経理を担当されている奥様などがこれに該当し得るというふうに考えております。他方で、逆に言えば、単に書類上事業に従事していることになっている配偶者ですとか、保証契約の締結の際に一時的に従事していたというような配偶者は該当しないというふうに考えてございます。

〇畑野委員 ですから、ただ単に配偶者たる地位というのを要件として意思確認を不要とするのは合理性に欠けていると言わなくてはなりません。「事業に現に従事している」という要件だけでは不十分だということです。伺いますけれども、個人事業者の事業に従事する配偶者について公正証書の作成が必要ないという規定を適用するに当たって、「事業に現に従事している主たる債務者の配偶者」というのは、具体的にはどういうものをいうのか、法務省に伺いたいと思います。適用するに当たっては、実際には事業を共同経営しているとか、実態などを考慮すべきではないかと思いますが、いかがですか。

〇小川政府参考人 比較的零細でありますことが多い個人事業主の事業を前提といたしますと、現に事業に従事している配偶者であれば、その事業の状況などを把握することは十分に可能であると考えられるということ、まさにそうであるからこそ保証意思確認の手続の例外とすることが許容されるものだというふうに考えております。そして、このような趣旨に照らしますと、現に事業に従事しているとは、文字どおり、保証契約の締結時においてその個人事業主が行う事業に実際に従事していると言えることが必要であると考えられます。先ほどもお話がございましたが、単に書類上事業に従事しているとされるだけでは足りず、あるいは保証契約の締結に際して一時的に従事していたというのでは足りないということになります。その意味におきましては、現に事業に従事しているかどうかということの該当性は、御指摘がありましたように、個々のケースにおける事業などの実態を踏まえて判断されることになるものと考えております。

〇畑野委員 配偶者保証の問題は、なお慎重な審議が必要だと思います。保証人の責任制限について伺います。  現在の民法第四百四十八条に今回第二項を追加して、主たる債務の目的または態様が保証契約の締結後に加重された場合にあっても保証人の負担は加重されないことを明示することとした趣旨はどのようなものですか。

〇小川政府参考人 お答えいたします。現行法には明文の規定はございませんが、一般に保証人の関与のないところでその負担が加重されるのは相当ではないというふうに考えられますので、主債務の目的または態様が保証契約を締結した後に加重されたときでありましても、保証人の負担は加重されないというふうに解されております。例えば、弁済期を平成二十九年四月一日とする百万円の売買代金債務を主債務とする保証契約が締結された、こういう場合には、その後、買い主と売り主が弁済期を同年三月一日と前倒ししたり、あるいは代金債務の額を百五十万円まで増額変更したとしても、保証人との関係では、あくまで弁済期は当初定めた四月一日であり、百万円の限度での保証債務ということになります。これは、改正法案におきまして、民法を国民一般にわかりやすいものとするという趣旨がございますので、その旨を明文化したことでございます。

〇畑野委員 保証人の責任制限については引き続き検討をする必要があると思うんです。法制審議会では、個人保証人が過大な保証債務を負い、破綻に追い込まれることを防ぐために、保証人の責任制限規定の導入について議論がされました。当委員会でも議論がされました。保証は主債務者との情義に基づき行われることが多くて、保証を拒むことが困難な現状に照らせば、主たる債務の内容や保証人の資力次第では保証人の責任を制限することを民法において明文化して保証人を保護することは必要不可欠だという意見も根強くございます。第三者保証、配偶者保証の制度を残すのであれば、保証人の責任を制限することを解釈、運用において検討すべきだということを申し上げておきます。

 最後に、金田法務大臣に伺います。まだ積み残された論点がございます。公序良俗違反の具体化としての暴利行為、契約締結過程における情報提供義務、契約の付随義務や安全配慮義務、複数契約の解除などのように、法制審部会で時間をかけて議論され多数の賛成が得られたにもかかわらず、一部の反対により明文化されなかった重要論点も少なくありません。約二十年を経て現行民法を改正し、現代の社会、経済への対応を図るというのであれば、今後も検討を続けるべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

〇金田国務大臣 畑野委員からの御指摘をいただきまして、お答えをいたします。民法制定以降百二十年、これまでの間におけます我が国の社会経済情勢は、取引量が劇的に増大しますとともに、取引の内容が複雑化、高度化する一方で、情報伝達の手段が飛躍的に発展したといったようなことなど、さまざまな面において著しく変化をしております。今回の改正法案は、このような社会、経済の変化に対応することを目的としておるわけであります。今後も、民法を社会、経済の変化に対応させていくことは重要である、このように認識をいたしております。他方で、民法の債権関係の規定というのは取引社会を支える最も基本的な法的インフラであるということが言えるわけでございます。その規定内容を変更することに伴う社会的なコストというものにも留意が必要であると考えております。そこで、法務省といたしましては、社会、経済の変化への対応の必要性と、改正に要する社会的なコストを勘案しつつ、改正法案の施行後の状況を注視した上で、今後の民法改正の必要性については検討してまいることになるであろう、このように考えておる次第であります。

〇畑野委員 約百二十年ぶりの民法改正の議論が尽くされたとは到底言えません。引き続く審議を求めて、質問を終わります。