裁判所職員の増員を

畑野氏に全司法労組委員長

 衆院法務委員会は24日、裁判所職員定員法改定案と司法修習生に給付金等を支給する裁判所法改定案の参考人質疑を行い、日本共産党の畑野君枝議員が質問しました。

 全司法労働組合の中矢正晴中央執行委員長は、裁判所書記官について、成年後見制度など家庭裁判所の役割が大きくなっているのに、地方から都市部への「人員シフト」などの対応にとどまっていると指摘。家事事件の新受理件数などが急増し、少年事件も複雑・困難化するもとで、家裁調査官は2009年に5人が増員されただけで、今回も増員がなく、同定員法改定案は「職場実態からは不十分だ」と述べました。

 畑野氏は、司法修習制度について、給費制を廃止し貸与制を導入した04年の法改定に日本共産党は反対し、「多くの関係者とともに、給費制完全復活を求めてきた」と述べ、給付金制度の創設について質問しました。

 日本大学大学院法務研究科の角田正紀教授は、「大きな第一歩であるが、課題もある」、弁護士の郷原信郎氏は「給費制復活が望ましい。貸与世代への対策が必要」と話しました。

(2017年3月30日付 しんぶん赤旗より転載)

 

【会議録】

畑野委員 日本共産党の畑野君枝でございます。  本日は、角田正紀参考人、郷原信郎参考人、中矢正晴参考人に貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。  まず、裁判所職員定員法改正案について、中矢参考人に伺います。  法案には、国家公務員の女性活躍推進とワーク・ライフ・バランス推進への協力の趣旨に鑑み、同様の取り組みを行うことから定員上の措置を講じているとあります。また、昨年八月、最高裁が財務省に提出した増員要求が、今回の法案では減少しております。こういった点を含めて、全司法労働組合として、裁判所の人的、物的充実を求めて国会請願署名にも取り組んでいらっしゃるわけですが、今回の法案についてどのようにお考えになっているのか伺いたいと思います。

中矢参考人 お答えいたします。  まず最初のワーク・ライフ・バランス等に関する定員の問題ですが、裁判所の職場においても女性の活躍というのは非常に重要な課題だろうというふうに考えております。国の機関が率先して女性が活躍できる職場になっていくということが必要だろうと思っております。裁判所職員は全体として女性の割合が非常に高く、とりわけ妊娠、出産という適齢期にあります三十代半ばの職員を見ますと、男性よりも女性の方が比率が高くなっているということがございますので、男女ともに育児、介護などの家庭責任を果たしながら職務に精励できる職場環境をつくっていくというのは非常に大事だと思っております。  そうした点からは、今回、そうした趣旨で裁判所事務官の増員が盛り込まれていることについては前向きに評価をしております。  ただ、実際に配置される人員というのは、数をお聞きしていますのは、最高裁に一人と全国八つの高等裁判所の管内に一人ずつというふうに聞いておりますので、ワーク・ライフ・バランスの推進で効果を上げるというためにはまだまだ不十分な数だろうと思っておりますし、事務官だけではなく、先ほどの陳述でも申し上げました、書記官や家裁調査官などの職種についても同じような定員の措置が必要だと考えております。  とりわけ家裁調査官は女性が非常に多い職種で、職種全体を通じても半数以上が女性ですし、若い層になればもっと女性の比率が高くなる職種でありますので、育児休業などを取得されるケースが非常に多くて、切実な問題であります。  職場の中で育児休業などをとられる方がいますと、その職員の分をほかの職員がカバーをするという必要があるわけでありまして、最高裁当局は育児休業の代替要員の確保については御努力をいただいているところでありますけれども、調査官、書記官などの資格職種については、事実上、その給源になるのが退職者ぐらいしかありませんので、同一職種での代替要員がなかなか見つからないという問題もあります。  また、育児休業のように丸一日とってしまうというようなケースではなくて、時間で取得する育児時間といったような場合、累計しますと、大きな庁でいえば常に一人以上の人員が欠けている状態で処理をしているような形がありますので、ぜひ、こういう点では、今年度まずこうした定員上の措置を認めていただいた上で、次年度以降はこの数の面でも職種の面でも拡大することを検討していただきたいというふうに考えております。  次に御質問がありました概算要求との差という問題であります。  概算要求ということで八月に最高裁が財務省の方に対して提出をしております予算を見せていただきますと、判事が二十七人、書記官が三十四人、事務官が十九人で、合計七十一名ということになります。先ほどお話をしました定員削減への協力でいきますと、この概算要求でいえばプラス・マイナス・ゼロ、そういう状況なわけです。  概算要求自体は、先ほど陳述をしましたとおり、職場の実態から見ればまだまだ不十分な数であるというふうにも思っておりますし、私たちとしては最高裁にはもっと増員を要求してほしいと思っております。また、定員合理化計画については反対という立場でございますが、ただ、一方、少なくとも、最高裁が必要だと考えて財務省に提出をされている概算要求ですので、せめて政府にはこの満額で認めていただくということをお願いしたかったというふうに思っております。  それから、委員にも御指摘をいただきましたとおり、全司法労働組合の取り組みとして、きょうの資料の中にもこういう署名用紙を入れさせていただいておりますが、全司法は毎年、国民がより利用しやすい司法の実現のために裁判所の人的・物的充実を求める請願署名に取り組んでおります。私どもは、職員の社会的地位の向上とともに、国民のための裁判所実現を組織の目標として掲げておりまして、この署名は表題どおり、国民がより利用しやすい司法の実現のためにということを目的にしております。そのためには、裁判所の人的、物的充実と予算の拡充が必要だということでありますし、そうした中で、私どももよりよい仕事をしたいという立場からこういう署名に取り組んでおります。  司法制度改革に向けた一九九六年以降の取り組みでありますが、これにつきましては与野党を含めた超党派で御支持をいただいておりまして、これまで二十年間、本国会において請願を採択していただいております。その点では、この場をかりて、与野党各党の皆様方に心から感謝を申し上げたいというふうに思います。  こうした請願の趣旨を踏まえて、最高裁も人的、物的充実のために御努力いただいており、政府にも御配慮いただいているということは承知をしておりますが、なおこの定員の面でもその趣旨を生かしていただきたいということをお願いしたいというふうに考えております。  以上です。

畑野委員 ありがとうございます。  そこで、中矢参考人に、先ほど、なかなか私たちもふだんお話を聞く機会がないわけですが、書記官の具体的な仕事の内容について少し触れていただきました。また、家庭裁判所調査官の役割や職場の実態についても少し触れていただきましたが、時間が余りなかったと思いますので、そのあたりでもう少しお話ししていただくとありがたいと思うのですが。

中矢参考人 お答えをいたします。  裁判所の書記官という仕事であります。  私も、先ほどお話をしましたとおり、二十数年間書記官として仕事をしてまいりましたが、書記という名前が示すとおり、もともとの業務は、法廷に立ち会って調書を作成し、記録を作成、保管するという仕事であります。こういう仕事、いわゆる公証官としての役割というのは引き続き重要でありますけれども、現在、書記官が担当している仕事全体から見ると、その比重は相対的に低くなっているというふうに思います。  現在、書記官が多くの時間を費やしておりますのは、法廷に立ち会いをする公判部の書記官であっても、期日前ですとか期日間の当事者間のさまざまな調整や事件の進行管理が中心でありますし、裁判官が起案されました判決のチェックをすることなども含めて、裁判官と一体でチームになって仕事をし、訴訟の進行を担うという役職になっております。いわば、裁判官についているスタッフ、サポートして一緒に仕事をするという形で仕事をさせていただいております。  とりわけ、先ほど家裁のお話をいろいろしましたが、その中で述べた非訟といった分野は、裁判所法六十条三項にも、「裁判官の行なう法令及び判例の調査その他必要な事項の調査を補助する。」といった趣旨も含めて、当事者に働きかけたり、裁判所が決定をするための資料を収集し、その内容を検討するといったことも含めて、書記官が中心的な役割を担っております。  先ほどのお話の中で、成年後見のお話をしました。少しお話をさせていただければと思いますが、成年後見でいいますと、窓口に当事者の方が来られたところの窓口相談から始まりまして、決定までのさまざまな手続をサポートし、事実の調査をし、決定後は、選任された後見人の相談にも乗りながら、適切に処理できるようにというふうにやっております。  とりわけ、成年後見で、書記官の関係でいいますと、この間、不正防止ということが極めて重要になっておりまして、後見人などが不正な手続、場合によっては横領といったようなこともないようにこれをチェックするという仕事を一義的にさせていただいていますのは書記官であります。預金通帳であるとか財産管理の帳簿などが出てきた際に、その内容を精査して、不正が行われていないかどうか、そういうことも書記官の役割になりますし、後見人は、一旦後見人がつきますと、その方が回復されるかお亡くなりになるまでずっとそういう仕事が続くということになりますので、事件としてはふえていく一方、こういう形になります。  もう一つ、家裁調査官でありますけれども、家裁調査官の役割として、一つは、少年事件における役割というのがございます。  少年事件の場合は、成人の事件と違いまして、少年、未成年者が非行をした場合には、原則として全ての事件が家庭裁判所に送られてまいります。その家庭裁判所に送られてきた事件について、最初に、心理学や教育学の知識を持った調査官が面会をすることによって、何をやったかということだけではなくて、どうしてやったのか、それから、やったこと自体は大したことがなくても、その少年の状況を見るとやはり一定の公的な措置が必要なのではないかといったところまで含めて見きわめをいたしますし、そういう過程の中で発達障害などが発見をされたり、こういうケースもございます。そういうふうな形で面談をした上で、処遇に対しての意見を裁判官に対して述べるとともに、さまざまな働きかけを通じて、少年が更生をする、再犯を、二度と起こさないというようなことも努力をしているところであります。  また、家事事件については、争っている当事者や、親の争いに巻き込まれている子供との面接ということが中心になります。資料にも書いていますが、夫婦関係調整事件ですとか面会交流において具体的な役割というのを果たしております。面会交流などでは、今、当事者間の紛争が非常に激しい事件が多いということであったり、面会交流の趣旨が必ずしも、本来子供のための手続でありますけれども、当事者双方の言い分が強くぶつかり合うということで、なかなか苦労している、こういうことも聞いたりいたします。  以上です。

畑野委員 ありがとうございました。  次に、裁判所法改正案にかかわって、司法修習について伺います。  司法修習制度においては、国が責任を持って法曹三者を統一的に養成するという見地から給費制がとられてまいりました。ところが、二〇〇四年の裁判所法改正で、給費制が廃止されて貸与制が導入されました。  私たち日本共産党は、給費制の廃止に反対をして、多くの法曹関係者の皆さんとともに給費制の完全復活を求めてきたわけでございます。  そこで、角田参考人、そして郷原参考人に伺いたいと思います。  将来の法曹が修習に専念して専門性を高めていくことは、市民の権利と自由の保障につながりますし、国民の利益に資することになると思います。この法案は貸与制を維持するということを前提としておりまして、給付額が不十分であることや、新六十五期から七十期まで、無給世代、谷間世代の救済がないということなど、幾つかの問題点があると思っております。  参考人の皆さん、どのように今後のことについてお考えでしょうか。

角田参考人 これまでこの席で述べてきたとおりですけれども、とにかく大きな第一歩である、しかも有効性もあるだろうというふうに思います。  ただ、委員が言われましたように、やはりもう少しこうしてほしいという点が全くないわけではないので、今御指摘になった点も含めて、課題として検討していただければというふうに思います。

郷原参考人 これまでにも申してきましたように、現状のもとで給費制を復活させること自体は私は望ましいと思いますが、根本的な問題解決になっていない最大の理由が、貸与世代に対する対策を何も講じないまま、ですから、もともと根本的に何が問題だったのかということをなおざりにしたまま、今回、現状対応的な措置だけとるということは、やはり私は適切ではないんじゃないかと考えております。

畑野委員 時間が参りました。  参考人の皆さん、きょうはありがとうございました。