第192回国会 2016年12月9日法務委員会
遺族に損害賠償金支払え 米空母乗組員犯罪 畑野氏が追及
日本共産党の畑野君枝議員は9日の衆院法務委員会で、神奈川県横須賀市で起きた米空母キティホークの乗組員による女性暴行殺害事件の損害賠償金約6500万円と年5%の遅延損害金がいまだに遺族に支払われていない問題を取り上げ、米国と日本政府が完全な救済を行うことを求めました。
1996年のSACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終合意では、米兵等が損害を与えた被害者に米国政府が支払う慰謝料が「裁判所の確定判決の額」に満たない場合、その差額を日本政府が支払う努力をすることになっています。
畑野氏は、民法改正案の法定金利が年5%から年3%変動制に変更されることに関し、遅延損害金について法務省に質問。小川新二民事局長は「裁判所の確定判決の額」に遅延損害金が含まれていると答弁しました。
防衛省の深山延暁地方協力局長は「SACO合意に遅延損害金が含まれないとは書いていない」と認めましたが、同省の小林鷹之政務官は「遅延損害金は支払いの対象としていない」と述べました。畑野氏は「それでは法理が通らない。防衛省には検討を求めたい」と反論しました。
当日は被害者遺族(68)も傍聴。畑野氏が米兵による凄惨な暴行経緯を説明したのに対し、金田勝年法相は「あってはならない事件だ」と述べました。
【会議録】
○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
民法、債権法の一部改正案の中で、法定利率を年五%から年三%、変動制に引き下げるという内容が含まれています。きょうはこの点について質問をいたします。
まず伺いたいのは、今回、百二十年ぶりの改正ということですが、法定利率が年五%のまま、なぜ百二十年間も維持されてきたのか、この点について伺います。
○金田国務大臣 畑野委員の御質問にお答えをいたします。
百二十年前に定められた後、現在まで維持された理由でございますが、民法の債権関係の規定は取引社会を支える最も基本的な法的な基礎でございます。したがって、その規定内容の見直しは、取引社会に多大な影響を及ぼすおそれがございます。そのために、民法の見直し作業は、法律の専門家でない国民各層からも広く意見を聴取しながら慎重に進められる必要があるという点でございます。
それから、個別に特則を制定することと比べまして、その改正に伴う社会的なコストが極めて大きいということ、そうしたことが考えられてきたわけであります。また、民法の債権関係の規定は、相互に関連し合う規律も少なくないわけであります。全般的な見直しを行わない限り、適切な見直しを実施しがたいという側面もあります。
このために、民法の債権関係の規定については、少しずつ手直しをしていくという方法がとられることもないままに現在に至ったものである。その中に、さっきお触れになった法定利率に関する規定も含まれていたことから、これまで改正が行われてこなかった、このように考えられるところであります。
○畑野委員 金田法務大臣から詳しい御説明がございました。
それでは、百二十年前に法定利率を年五%にした、その当時どのような議論でこれが決まったのか、伺いたいと思います。
○小川政府参考人 お答えいたします。
法定利率を五%とする理由につきまして、現在の民法の立案作業を行いました法典調査会の記録によりますと、当時の我が国における貸出利率や当時の諸外国では、法定利率を五%と定める例が多かったことなどが理由として挙げられているところでございます。
この理由の説明に続いて、経済変動が生じた場合に規定を変える考えなのかどうかとの質問があり、実際に法定利率に関する規定を改正した国があることなどが紹介されるなどしたほか、法定利率に関する規定が民法に設けられた場合には利息制限法を廃止する考えなのかどうかといった質問があり、利息の制限に関しては特別法を設けたままにしておく方がよいといった、さまざまな議論がされたところでございます。
○畑野委員 いろいろな議論の中でそのようになったということですが、それでは、今回の改正案ですが、どのような立法事実に基づいて法定利率を年五%から年三%にするのか、さらに加えて、変動制にするということですので、そのようにするのか、あわせて伺います。
○小川政府参考人 まず、三%に引き下げた点でございます。
現行法第四百四条は、その制定当時の市中における一般的な貸出金利を前提として五%としたわけですが、その制定以来、先ほどもお話ありましたように、見直しがされておりませんので、昨今の超低金利の情勢のもとでは、法定利率が市中金利を大きく上回る状態が続いております。
しかし、法定利率が市中金利を大きく上回っていると、債務者が支払うべき利息や遅延損害金の額が著しく多額となる一方で、損害賠償額を算定する際の中間利息の控除の場面では不当に賠償額が抑えられるなど、当事者間の公平を害する結果となっているとの指摘がされております。
そこで、現在の市中金利の水準に合わせて法定利率を引き下げる必要がございます。これが立法事実でございます。
市中金利の指標にはさまざまなものがございますが、貸し金債権の利息を算定する場面ではもちろんのこと、金銭債務の遅延損害金を算定する場合でも、他から金銭を調達するときの利息分が主な損害として想定されることから、法定利率の引き下げ幅の検討に当たりましては、預金金利などではなく貸出金利の水準を参照とすると考えられました。
また、その際には、法定利率の適用場面はさまざまでありますため、借り手が大企業や中小企業である場合のほか、一般消費者である場合の水準も広く考慮に入れる必要がございます。
さらに、法定利率の引き下げの場合には、遅延損害金の額が低くなり過ぎると債務不履行を助長する結果となりかねない、あるいは百二十年にわたって年五%の運用がされてきたこととのバランス等の問題もございます。
そこで、改正法案におきましては、以上のさまざまな事情を総合的に判断するとともに、簡明な数値とする必要性なども勘案して、法定利率を三%に引き下げたものでございます。
続きまして、変動制を採用したところでございますが、改正法案におきましては、法定利率を年三%に引き下げることとしておりますが、市中金利は今後とも大きく変動する可能性がありますため、仮に法定利率を年三%で固定してしまうと、将来、法定利率と市中金利が大きく乖離する事態が生ずるおそれがございます。
このような事態への対応は、今後のさらなる法改正に委ねることも考えられます。しかし、法定利率の数値は関係者間の利益対立が先鋭化する事柄でありますため、合理的な変動の仕組みをあらかじめ法律で定めておき、それに従って機械的に数値を変動させることにより、社会全体として法定利率の予測可能性を高めるのがより適切であると考えられます。
もっとも、市中金利の短期的あるいは微細な変動に連動して法定利率の数値が変動いたしますと、実務的な取り扱いが極めて煩雑になり、それに対応するための社会的コストが非常に大きくなるため、変動の頻度は緩やかなものとするのが相当でございます。
そこで、改正法案では、金利の一般的動向を示す一定の数値を指標とし、その数値が大きく変動した場合に法定利率をその変動に合わせて緩やかに上下させる変動制を採用することといたしました。
○畑野委員 法定利率に関する見直しということで、法務省から資料もいただきました。どのようなときにこの法定利率を扱うのか、あるいは変動性の問題も含めて言われております。資料の中にありますように、金利がどのようにこの間動いてきたかというのも資料として載っているわけです。
それで、今お話しの中で、遅延損害金についても触れておられました。法案では、法定利率が五%から三%、変動制になるということですが、現行法と同様に、遅延損害金も三%、変動制になるということでよろしいでしょうか。
○小川政府参考人 現行法におきましては、金銭の給付を目的とする債務の不履行を理由とする損害賠償の遅延損害金の利率も、当事者間で約定利率が定められていない限りは法定利率によることとされております。改正法案におきましても、遅延損害金の利率が法定利率によること自体は、その点は現行法と変わりはございません。
また、改正法案におきましては、法定利率について変動制を採用することとしておりまして、この点は遅延損害金にも適用されます。
なお、遅延損害金がどの時点の法定利率が適用されるかについては、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によることとしております。
○畑野委員 では、このような事件が裁判で争われた場合、不法行為による損害賠償請求事件について、裁判所が民事訴訟の判決の主文において遅延損害金を含めて金銭の支払いを命じて、その判決が確定した場合、確定判決が定めた加害者が支払うべき額には遅延損害金も含まれるという理解でよろしいでしょうか。
○小川政府参考人 お答えいたします。
裁判所が遅延損害金を含めて金銭の支払いを命じた判決、これが確定した場合におきましては、その確定判決により加害者が支払うべき額には、当然のことながら遅延損害金も含まれることになります。
○畑野委員 当然のことながら遅延損害金も含まれるということです。
それでは、被害者が損害賠償請求をするためには、弁護士の支援が必要です。先日、藤野議員が質問したB型肝炎訴訟など、多くの事件について、弁護士の皆さんが活躍されてこられました。
そこで伺います。
加害者が被害者に対して不法行為と相当因果関係のある全ての損害について賠償するために、弁護士費用についても不法行為における損害賠償債務に含まれるということで間違いありませんか。
○小川政府参考人 お答えいたします。
不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟追行を弁護士に委任した場合に、その弁護士費用が損害と言えるのかについて、これは判例がございまして、判例は、「事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害」となるとしております。
したがいまして、弁護士費用も加害者が賠償すべき損害の一つでありまして、不法行為と相当因果関係に立つ範囲内のものに限り損害賠償債務に含まれると考えられるところでございます。
○畑野委員 それでは、弁護士費用も含めて、不法行為に基づく損害賠償債務に対して、いつから遅延損害金を支払わなければならないかという点ですけれども、先ほどもちょっと触れられましたが、確認です。不法行為の時点から遅滞に陥るということで間違いありませんね。
○小川政府参考人 この点につきましても判例がございまして、不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用について、「その余の費目の損害と同一の不法行為による身体傷害など同一利益の侵害に基づいて生じたものである場合には一個の損害賠償債務の一部を構成する」とした上で、加害者が負担すべき損害賠償債務について、「不法行為の加害者が負担すべき損害賠償債務も、当該不法行為の時に発生し、かつ、遅滞に陥る」としております。
このように、不法行為により発生する損害賠償債務の遅延損害金は、基本的に不法行為のときから生ずるとされております。
○畑野委員 不法行為のときからということでした。
それで、今、弁護士費用の問題、それから遅延損害金の問題、そしてそれが不法行為の時点からという御答弁をいただきましたが、なぜそういうふうにしているのか、その趣旨について伺いたいと思います。
○小川政府参考人 不法行為に基づく損害賠償債務が不法行為の時点から遅滞に陥る趣旨でございますが、不法行為に基づく損害賠償債務が不法行為の時点から遅滞に陥るとされます理由について、これは判例の方は明示はしておりませんで、必ずしも明らかとは言えない部分がございますが、一般的には、当事者間の公平がその趣旨であると考えられているところでございます。
○畑野委員 最初の方に聞いた、弁護士費用について含むということの趣旨についても教えていただけますか。
○小川政府参考人 お答えいたします。
判例は、不法行為の損害に弁護士費用が含まれることについて、「相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ない」ことなどの理由を挙げておりまして、不法行為との間に相当因果関係が認められると説明しております。
趣旨といたしましては、被害者の権利擁護などが考えられるところでございます。
○畑野委員 被害者の権利擁護だというふうにおっしゃいました。弁護士費用及び遅延損害金も加害者が被害者に支払うべき損害であり、賠償すべきものであるということが確認されました。
それで、確認なんですが、こういったことを進める上で、法定利率が改正案では年三%、変動制になるんですが、これが適用されるのはいつの時点で、どういう利率になるのか、この点について伺います。
○小川政府参考人 お答えいたします。
改正法案では、金銭債務の遅延損害金について、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によるとしておりますが、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点とは、遅延損害金を生ずべき債権について債務者が履行遅滞となった最初の時点をいうというふうに考えております。
そして、不法行為に基づく損害賠償債務は、不法行為時に債務者が直ちに履行遅滞に陥るとされておりますので、不法行為時が債務者が遅滞の責任を負った最初の時点となります。すなわち、不法行為時の法定利率が損害賠償債務の遅延損害金に適用される法定利率ということになります。
○畑野委員 そうすると、確認なんですが、今まだ現行法ですよね、現行法でいえば、今の時点で不法行為があって、年五%の遅延損害金になる。もし仮に、改正がされたとして、それ以降に事件が起き、不法行為が起き、となれば、その時点での利率になるという解釈でいいのかということが一つと、変動となった場合に、その後、利率が変わるんじゃないかという心配がもしあるとしたら、それは違いますよ、最初の不法行為が起きた時点からずっと変わらずに、その先、法定利率はいきますよという理解でよろしいですか。
○小川政府参考人 御指摘いただきました理解で結構だと思います。
○畑野委員 わかりました。
さて、一般に財産的被害について言うと、被害者が有している財産を失ったという積極損害、例えば治療費、修理代金などと、被害者が将来得ることができたであろう利益を得られなかったという消極損害、例えば事故で寝たきりになったために働けなくなったことにより失った収入など、逸失利益、得べかりし利益とも言いますけれども、に分けられていると伺っております。
お手元の資料の三枚目ですが、ここにつけさせていただいた、赤い表紙の、これは交通事故の損害賠償実務で使われている民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準、いわゆる赤い本のコピーです。この本では、遅延損害金は弁護士費用と並んで積極損害に含まれております。目次をその後つけておりますが、そのように書かれております。
赤い本にこのように書かれているということについては、法務省は御承知でいらっしゃいますね。
○小川政府参考人 今御指摘がありました日弁連交通事故相談センターが発行しております民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準におきましては、積極損害、消極損害といった分類が用いられ、弁護士費用や遅延損害金が積極損害に分類されているものがあることは承知しております。
○畑野委員 そこで、改めて、本来得ることができたはずの利益が失われたという逸失利益について伺いたいと思います。このことについて御説明をしていただけますか。
○小川政府参考人 お答えいたします。
御指摘がありました逸失利益とは、債務不履行や不法行為がなければ本来得られたであろう利益をいいまして、得べかりし利益などと呼ばれることもございます。例えば、事故に遭わなければ労働することにより得られたはずの収入などがこれに該当すると考えられます。
○畑野委員 法案では、第四百十七条の二で、中間利息について新たな規定を設けています。
現行法では、判例によって、これまで、不法行為における逸失利益の計算に当たっては中間利息年五%が控除されて、また、事案によってはさまざまな対応がなされているというふうに伺っております。
今回、法案第四百十七条の二では、年三%、変動制が適用されるということになっています。今回新しく条文を置いたその趣旨について御説明ください。
○小川政府参考人 将来において取得すべき利益あるいは負担すべき費用を現在価値に換算するために控除すべき中間利息の割合について、判例は、法定利率の割合によらなければならないとしております。
その趣旨は、法定利率が民法制定当時の貸付金利などを踏まえて定められたことを前提に、そのように定められた法定利率を用いて中間利息控除を一律に行うことが、控除割合の判断が区々になることを防ぎ、被害者相互間の公平を確保し、損害額の予測可能性を確保して紛争の予防も図ることにつながるというものでございます。
改正法案におきましては、法定利率を年三%に引き下げるとともに変動制を採用しておりますが、中間利息控除に関するこのような判例の趣旨を踏まえ、法定利率の適用場面に関する現状の制度の枠組みを維持する観点から第四百十七条の二を新設し、中間利息の控除を行う際には、事故の時点を基準時として、その時点における法定利率を適用することとしております。
○畑野委員 中間利息控除について、資料の二枚目のところに法務省からいただいたものをつけさせていただきました。
将来得ていたであろう収入から運用益を控除する。だから、この図にありますように、合計二千万円の場合に、中間利息控除で、実際の賠償額は一千五百九十万円になるということがわかりやすく書かれているというのが中間利息控除です。つまり、この分は減るということです。
確かに、これまで、中間利息が実勢と乖離をして、結果として逸失利益の賠償額が大きく減ってしまうということにもなっていたかと思います。それで、今回それが、年五%から年三%、変動制に、二%下がるということになれば、死亡事故等における損害賠償額がふえるということなど、従来よりも実勢に近い形で算出されることになって、被害者、遺族の救済にもつながるということもあるかというふうに思うんです。
実際、その損害賠償の算定の際なんですが、逸失利益から中間利息を控除して計算する、つまり減らす、その上で、遅延損害金については年五%付加するというふうにやってきたというふうに伺っております。
一般論として、中間利息を控除しておいて、なおかつ、遅滞に陥っているにもかかわらず、遅延損害金の方は付加されないということは民法上あるんでしょうか。私は、被害者救済の観点から、もしあるとすれば大問題だと思うので、ないと思うんですが、いかがですか。
○小川政府参考人 不法行為により失われました将来得られるはずであった労働収入などの逸失利益につきましては、損害賠償額を算定するに当たり、まず、これを現在価値に引き直すために中間利息の控除を行うのが一般的な実務運用でございます。そして、このような逸失利益についても、不法行為時から履行遅滞に陥り、遅延損害金が発生すると解されております。
したがいまして、一般的に、不法行為損害に関して、加害者が支払いを遅滞した場合に遅延損害金が発生しないということはないと考えられます。
○畑野委員 ないということでした。
それで、わかりやすく言えば引く分と足す分、そういう利率なんですが、中間利息の利率と遅延損害金の利率を今回そろえているという理由は何なんでしょうか。
○小川政府参考人 まず、現在の裁判実務におきましては、特に交通事故訴訟や医療過誤訴訟などを中心として、遅延損害金の算出に用いる利率と中間利息控除に用いる利率が一致することを前提に、安定した損害賠償額の算定の実務が形成されております。これは、かつて、中間利息控除に用いる利率を法定利率よりも低くすべきであるとの議論がある中で、最高裁が、遅延損害金の算出に用いる利率と同様に、中間利息控除に用いる利率も法定利率によるべきであるという判断をしたことを受けたものでございます。そして、遅延損害金に適用される利率と中間利息控除に適用される利率が同じであることは、当事者間の公平感の観点からも望ましいと考えられます。
これらを踏まえまして、改正法案におきましては、遅延損害金の算出に用いる利率と中間利息控除に用いる利率とを、同じく法定利率によるとしたものでございます。
○畑野委員 いろいろな意見や議論があったということです。
ここまで、法定利率について、今回の改正案について伺ってまいりました。また引き続き議論はするんですが、私は、この法案が今後適正に運用されるのかという観点から、それでは、現行法がどのように運用されているのかということについて、具体的に伺いたいと思います。
きょうは防衛省からも来ていただいております。
私の住んでいる地元の神奈川県横須賀市で、二〇〇六年一月三日、出勤途中の佐藤好重さんが、横須賀基地を母港としていた空母キティーホークの乗組員の米兵に、無残にも殺害されました。
横浜地裁判決では、こう書かれています。
被告Y2は、今度は相手を殴ってでもバッグを奪おうなどと考え、更にバッグを持った女性を探して付近を歩き回っていたところ、バッグを腕に提げて上記ビル前歩道を歩いていたAを認めた。そして、同日午前六時二十七分ころ、Aに日本語で「すみません」と声を掛けて近づき、「ベース」と英語で話し掛け、Aから「横須賀ベース」と聞き返されると、再び「ベース」と言った。そこで、Aが横須賀基地の方を指示して、そのまま歩いていこうとするや、Aの前に回り込み、Aが腕に提げていたバッグをつかんで引っ張った。これに対し、Aが体をよじって抵抗すると、その顔面を手けんで一回殴打して歩道上に転倒させ、その腕をつかんで上記ビル一階通路にひきずり込むなどの暴行を加えた。しかし、Aがバッグを手放さず、悲鳴を上げるなどして抵抗したため、Aが死亡してもかまわないと決意し、そのころから同日午前六時三十八分ころまでの間、Aの襟首を両手でつかみ、その体を引きずり上げて同所に張り出したコンクリート壁の角目掛けて両手で力一杯投げ付け、その右背部等を上記コンクリート壁の角にたたき付けた上、コンクリート床上に仰向けに転倒したAの腹部等を運動靴を履いた足で多数回力一杯踏みつける、などし、Aを右腎及び肝臓破裂により出血死させて殺害した。そして、上記バッグに入っていたA所有の現金約一万五千円を強取した。
金田法務大臣に伺いますが、このような米兵による犯罪事件は起きてはならないと思いますが、大臣はどのように思われますか。
○金田国務大臣 ただいまのお話を伺って、委員御指摘のとおりと思います。
○畑野委員 あってはならないということでよろしいですか。
実は、きょう、被害者の夫の山崎正則さんも傍聴に来られているんです。大臣のお言葉で少しお話ししていただけますか。
○金田国務大臣 畑野委員のお話を伺って、非常に、私個人としましても、あってはならないこと、このように思っております。
○畑野委員 それでは、防衛省から小林防衛大臣政務官も来られておりますので、どのように思われますか。
○小林大臣政務官 今、畑野委員のお話を伺っておりまして、思うところは同じだというふうに思っております。
こうした事件が起こってしまうことは非常に遺憾だと思いますし、防衛省・自衛隊としても、こうした事件が起こらないよう再発防止にしっかりと努めていく、そのことが大切だというふうに認識をしております。
○畑野委員 夫の山崎正則さんを初めとして御遺族が起こした民事裁判は、二〇〇九年五月二十日、横浜地方裁判所で確定しております。米兵に対して、約六千五百万円及びこれに対する事件の日から年五%の遅延損害金の支払いを命じました。
この事件を受けて、在日米海軍司令部、横須賀市にありますが、ジェームス・ケリー司令官は、判決が出ても、事件の悲劇が多くの方々に決して癒やすことのできない感情的な傷を負わせたことを認識している、今後、同様の事態が繰り返されないように再発防止に全力を尽くすと述べています。
また、当時の横須賀市長は、遺族への補償問題で誠実な対応をするよう強く求めると、ケリー司令官だけでなく、当時の防衛施設庁や外務省を訪ねて、速やかに解決するよう念を押しました。
ところが、今度の一月三日で事件は十一年目を迎えようとしておりますが、御遺族の方には、加害者米兵から一円も支払いがなされておりません。ひどい話です。
伺いますが、日米地位協定十八条六項、ここでは米国政府の対応についてどのようにしているのか、その趣旨について伺いたいと思いますが、防衛省、いかがですか。
○小林大臣政務官 お答え申し上げます。
米軍人などによります公務外の事故などに伴う損害につきましては、原則として加害者が賠償責任を負うことになっておりますから、当事者間の示談による解決がまずは追求されることになります。
その上で、日米地位協定第十八条第六項の規定につきましては、当事者間の示談が困難な場合に、防衛省が被害者側からの補償請求を受け、その上でその内容を精査し、そしてアメリカ側に報告書を送付し、その後アメリカ側が慰謝料の額を決定する、そして、被害者側の受諾を得た上で支払いを行うこととしております。
○畑野委員 被害者を救済するということでよろしいですか。
○小林大臣政務官 お答え申し上げます。
もちろん、被害者を救済する、そういう趣旨にのっとって今までの取り組みをさせていただいておりますけれども、アメリカ側との取り決めに従った上での対応ということになっているわけでございます。
○畑野委員 被害者を救済することだということです。ところが、米国が支払う慰謝料というのは、確定判決額に満たないのが現状です。
こういう状況ですから、被害者の方を救済するということで、一九六四年の閣議決定で、「合衆国軍隊等により損害を受けた者に対する賠償金及び見舞金の支給について」があります。これの趣旨について、説明していただけますか。
○小林大臣政務官 まず、SACO見舞金につきましては、米軍人などによる公務外の事故などにおける補償に関する地位協定第十八条第六項、これは委員御指摘のものでございますけれども、その運用改善措置の一つとして、平成八年十二月のSACO最終報告に盛り込まれたものでございます。
この措置につきましては、SACOの検討過程におきまして、沖縄県から、日米地位協定第十八条第六項による補償につきまして、加害者側である米軍人などが無資力であるなどの理由によりまして、最終的に米国政府から補償を受けることとなった場合、米国政府による補償額が確定判決を下回る事例があるとの問題提起がなされたことを踏まえまして、SACO最終報告におきまして、日本政府がその差額を埋めるよう努力をする旨が盛り込まれたものであるというふうに承知をしております。
○畑野委員 SACOについて説明していただいたんですが、その前に、閣議決定について伺いましたが。お願いします。
○深山政府参考人 お答え申し上げます。
御指摘の「合衆国軍隊等により損害を受けた者に対する賠償金及び見舞金の支給について」、昭和三十九年六月二十三日の閣議決定でございますが、これは、この閣議決定におきましては、米軍人等が起こした事故等において、米側当事者に事故等の原因があるか否か等について日米間で見解が分かれ、日米地位協定第十八条五項または六項の規定により被害者が救済されない場合に、国が当該被害者を救済することが必要と認めたときは見舞金を支給することができるという趣旨を定めたものでございます。
○畑野委員 つまり、救済されない場合に日本政府が行うことを決めたというのが閣議決定で、その上で、小林政務官がおっしゃったように、SACO合意、最終報告でそのようなことが取り決められたということですね。つまり、運用の改善として行われてきたということです。
きょう、私は、資料の最後のところにつけましたけれども、防衛省が「損害賠償請求手続きのご案内」というものを出しております。その中の七ページのところに、SACO合意、SACO最終報告についてのことが載っておりまして、その一番下のところを見ていただければわかるように、「米国政府による支払いが裁判所の確定判決による額に満たない」場合にというふうに書かれたわけです。
それで、引き続き伺いますけれども、このSACO合意、最終報告に記載されている「裁判所の確定判決による額」、これについて、遅延損害金を含まないということがこのSACO最終報告の内容として明記されているかということを確認したいんですが、いかがでしょうか。
○深山政府参考人 SACO最終報告には、遅延損害金に関する具体的な記述はございません。
○畑野委員 そのとおりですね。SACO最終報告には書かれておりません。遅延損害金を含まないというふうにも書かれておりません。それは、先ほどから大臣を初め法務省と議論をしてきたように、それはもう当然含まれるということが大前提で日本の法理では進められてきたからだと私は思うんです。
実は、このお手元に配りました防衛省の「損害賠償請求手続きのご案内」を最初から最後まで見ても、遅延損害金は含まれないとは書かれておりません。
それで、私は伺いたいんですが、山崎正則さんを初め御遺族は訴えていて、被告の米兵から一円も払われていないと。御遺族の方は、お金ではない、責任をとってほしいんだと長い間訴えてこられているんです。つまり、山崎さんは、米兵による事件が繰り返されるのは、全額を払う痛みが米国、米兵に伴わないことも一因じゃないか、まずは、米側が全額を払うよう日本政府は強く求めるべきだ、こういうふうに言っておられるんですね。
この点について、防衛省としてはいかがですか。
○深山政府参考人 先ほどの閣議決定、そして、SACO最終報告に基づくSACO見舞金の考え方でございますけれども、政務官から申し上げましたように、加害者、それに加え、米国政府による支払いが裁判所の確定判決による額に満たないような事例が生じた場合に、その差額を埋めるためにSACO見舞金を支払うという方式をとっておるところでございます。
先ほど累次政務官が御説明しましたように、これは被害者の方の救済ということを念頭に置きまして日本国政府で求めていることでございますので、やはり、この制度に基づき的確なお支払いをさせていただくということが被害者救済に続く道ではないかと考えております。
○畑野委員 ですから、米兵が払うべきものは、山崎さんが訴えている、御家族の訴えておられる、裁判所も確定した約六千五百万円と遅延損害金年五%ということが米兵が払わなくてはならない額であって、それをきちんと払うように求めていくということが日本政府として必要なのではないかということですが、いかがですか。
○深山政府参考人 現在の制度の趣旨につきましては、累次御答弁したとおりでございます。
その一方で、例えば、これは全ての米軍人に言えることではありませんが、ややもすると、米軍人は短期の配置で日本国におるような場合もございます。実際上の問題といたしまして、確定判決を受けても資力がない場合もございます。昭和三十九年の閣議決定、そして、それに引き続く制度といいますものは、こうした実情も鑑みまして、日本政府側の見舞金等の形でそうした被害を埋め合わせるという観点でできてきているものと存じますので、もとより、確定判決というのは被告に対して出されるものでありますが、それが支払えない場合等におきましては、こうした措置も必要であると考えているところでございます。
○畑野委員 ですから、被害に遭われた方に対してきちっと払う額は、山崎さんの訴えによる判決によれば、遅延損害金も含まれているということになりますね。
○小林大臣政務官 防衛省といたしましては、委員御指摘のSACO最終報告に基づきまして、裁判所の確定判決による額に米国政府による支払いが満たない場合に、必要に応じてその差額を埋めるために、先ほど来出てきているSACO見舞金を支払ってきているわけでございます。
一般に、確定判決におきましては、先ほど来御答弁にありますとおり、遅延損害金の支払いを命じられている場合は、その遅延損害金は支払われるべきものと承知をしております。しかしながら、この判決による遅延損害金の支払いというものは、あくまで不法行為を行った者に対して示されるものであるというふうに認識をしております。
他方、防衛省が、不法行為を行わず、また損害賠償責任を負わない場合でありましても、防衛省といたしましては、被害者の救済の観点からSACO見舞金をこれまでも支払ってきたところでございます。
こうしたことから、防衛省といたしましては、賠償金が支払われないことに対します延滞料の性格を有する遅延損害金につきましては、現在、支払いの対象としておりません。まずは、SACO見舞金自体の支払いを行うことに努めてまいる所存でございます。
○畑野委員 そういう、法理が通らないことをやるからだめなんですよ。これは、そういう態度では日本国内で通用しませんよ、民事の裁判においても。どうですか。
それをもう一回持ち帰って、検討を求めたいと思いますが。
○小林大臣政務官 お答え申し上げます。
繰り返しになりますけれども、SACO見舞金は、国が損害賠償責任を負って支払う賠償金とは異なりますことから、賠償金が支払われていないことを理由とする延滞料の性格を有する遅延損害金は、SACO見舞金の支給対象とはしていないわけでございます。
なので、防衛省といたしましては、SACO見舞金の支払いを行うことを含め、被害者の方が適正な補償を受けられるよう、引き続き努めてまいりたいと思います。
○畑野委員 ですから、そのことも含めて、もう一回。今、政府挙げて、民法、債権法の改正をどうするのかと議論しているわけですよ、法定利率の問題、遅延金の問題、中間利息の問題。そういうときにちゃんと、防衛省だって内閣の一員なんですから、民法をきちっと理解してやっていただきたい。
そのことを私は強く求めて、時間が参りましたので、質問を終わります。