第190回国会 2016年4月22日法務委員会
低賃金労働を温存/外国人技能実習法案 法務委員会で参考人に質問
衆院法務委員会は10日、外国人技能実習制度の実習可能期間や対象職種の拡大に道を開く外国人技能実習法案・入管法改定案について参考人質疑を行いました。日本共産党は畑野君枝議員が質問しました。
参考人の鳥井一平・移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)代表理事は、「技能移転」による「国際貢献」を建前とした外国人技能実習制度が、実際には低賃金の外国人労働者の受け入れ制度として機能していることは周知の事実であると指摘。時給300円、セクハラ、暴行などの人権侵害が繰り返される背景には虚構を積み重ねた制度そのものに構造的な問題があると強調し、根本問題を温存したままの改定案を批判しました。
実習生の相談を受けてきた榑松(くれまつ)佐一・愛労連議長は、関係機関にだまされて各地の建設現場で酷使されたベトナム人実習生が失踪したことについて、失踪に正当な理由があると認めない法務省を批判。「法務省に人権感覚がないようでは(改定案で監督強化をうたう)新しい機構ができても奴隷労働のそしりは免れない」と批判しました。
畑野氏が、実習生が自らの意思で実習先を移転できないことがどのような影響を与えているかをたずねると、鳥井氏は「実習生にとって、(使用者に)辞めろと言われることは国に帰れということになる。多くは母国で借金を抱えてきており、問題があっても黙らざるをえない」と述べました。
畑野氏が新たな機構で実習生の過酷な実態を改善できると考えるかと問うと、榑松氏は、人員体制の弱さを指摘。「実習生が母国語で申告できるようにしなければならない。今度の機構は対応できるのか」と疑問を呈しました。
(2016年5月11日(水)しんぶん赤旗)
【会議録】
○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
本日は、根本嘉昭参考人、村尾和男参考人、多賀谷一照参考人、坂本恵参考人、後藤純一参考人、皆様に貴重な御意見を伺い、ありがとうございます。
まず初めに、全ての参考人の皆さんにお伺いをいたします。
先ほどからもお話がありますように、外国人技能実習制度において人権侵害の問題が多数指摘されていることについてどのようにお考えになるのか、また、外国人技能実習生がみずからの意思によって実習先を移転することができない、変更することができないということについてどのようにしていくべきだとお考えなのか、この二点について伺いたいと思います。
○根本参考人 御質問ありがとうございます。
最初の人権侵害のおそれというのは、先ほども申し上げたように、人を通じて人のサービスを提供するという、特にヒューマンサービスの典型である介護というふうなものでは、物すごくあると思うんです。そして、それがチームでアプローチしているようなサービスであれば、集団対集団でサービスが提供できているような場であれば比較的それは少ないんだろうと思いますけれども、特に、パーソナルと申しますか、マンツーマンの形でサービスが提供されるときに、その人権侵害というのは、またそのリスクというのはより強まるんだろうというふうに思っております。また、その人権侵害は、恐らく、単に日本国内だけにとどまらずに、非常に微妙な部分もあれば、国際問題にもすぐに発展しかねないような微妙な問題にもなりかねない、非常に大きなリスクを抱えているところだろうと思います。
したがいまして、先ほども申し上げたところでありますけれども、まず、そのような介護の分野に拡大するに当たっては、可能な限りそのようなリスクが少ないところから始めていくということがまず肝要かなというふうに思っておりますし、また、我が国の介護人材不足というのが今言われておりますけれども、先ほど、それに対しては外国人を充てないという大原則を言いました。そういうふうな考え方でいって、潜在の介護福祉士さんであるとか、そのほかいろいろな日本の人材でもって現在の介護の人材不足には対応していくというのが大きな基本方針であります。
それであれば、何で介護の現場にそのような外国人の実習生を受け入れるのかということですが、これは私見になりますけれども、実際にEPAの外国人の介護福祉士さんが働いている場においても、非常に大きなものとして言われているのが、外国人を介護の現場に入れるということは物すごいメリットがあるというんですね。それは何かというと、やはり人と人とのかかわりの中で来ることですから、当然、外国の文化を背景とする人格を持った介護士さんがいることによって、その施設の文化、介護現場の文化が非常により豊かになっていくというふうなメリットがある。これが恐らく、我が国で外国人の方に介護の現場に来ていただくことの最大のメリットかなというふうにも思います。
それともう一つ、ちょっと話が外れて恐縮ですけれども、今、日本の方々が相当海外に出ておりますけれども、日本で介護の経験を持った人たちがそれぞれの国に戻っていろいろな仕事をやっているときに、外国にいる日本人が何か介護が必要になったときに、そのような人たちがいるところに行くところの安心感というのは物すごく大きいものがあるというふうにも言われております。だから、その意味で、やはりただ単なる人手不足ということではない大きなメリットが、外国人の方を入れるということについてあるんだろう。
いずれにしても、外国人の方の人権侵害、非常に微妙な問題がたくさんあるので、まずそこは、できるだけそのおそれを回避するような形のところからスタートするのが一番よろしいのかなというふうにも思っております。
それから、実習先を変更するという問題でありますが、それはまだちょっと実際に動いて見てみないとわからないし、少なくとも、今考えているいろいろな、先ほども申し上げた七つの対策をきちんと対応していけば、恐らくそう簡単にはお逃げにならないのではないかというふうに思っているところでございます。
○村尾参考人 やはり、日本人と同じ立場で扱うというのが私は一番根底にあると思うんです。
それはどういうことかというと、職場の人間関係も含めて、我々も巡回させてもらっています、何かあるとちゃんと連絡してきてくれるような、我々の職員と実習生との関係、そういったものを大事にしている、我々はそれをやらせているんです。
例えば、実習生だけが残業が多いとか、あるいは日本人が嫌う仕事をやらされる、そういうのは、我々も職場巡回していますからすぐわかりますので、実習先の方へ話をしていく。我々のところは今のところほとんどないんですけれども。
そういうふうなことで、やはり日本人と同じ立場で、日本人にはこう言うけれども、実習生にはこういう言い方をするではやはりまずいと思います。企業さんが雇用されているものですから、日本人と同じような立場でやっていただこうということでうちも進めております。
それから、移転の話がうちも一件ありました。ありましたのは、生産が落ちてしまって、ほかの組合さんからうちの方へかわってきたというふうな、同じ職種で同じ技能検定二級を取って、あと二年間残っているんだけれども、今、うちの仕事はこれ以上やれないというふうなことから、うちの方へ移転してきたのが四名おりますけれども、あとは、今までは経験もございません。
以上です。
○多賀谷参考人 人権侵害というのがどういう場合か、実例は知りませんけれども、想定で申し上げます。
一つは、先ほど来、低賃金の外国人労働者を受け入れることが目的といいますか、要するに、本音と建前じゃなくて本音だけのような問題がある。そういうのはあるかもしれません。ただし、そういう中小企業等があったら、今回の法改正でそれはできなくなるだろうと思います。
あともう一つは、恐らく、外国人と雇用者との間の意思疎通の問題があります。特に、少人数で、要するに、外国人も一人か二人、そして雇っている方も一人か二人、そういうところだと、労働環境といっても、そこでどういうふうに外国人を遇していいか、恐らく、言葉の疎通がうまくいかない、そういうような関係でなっている例が多分あるんだろうと思います。それはやはり、今後、監理団体を通じて、あるいは業単位でそういうものは是正していくべきだと思います。
それから、移転の話ですけれども、外国人は、一応建前としては、労働者ではなくて技能実習者として雇う、例えば大学でいえば、学生としてやる。学生がある大学から別の大学へ移るというのはそう簡単にできるわけではありませんし、今回の制度でも、二号から三号に移るときとか、あるいは、それこそ実習実施者から人権侵害的な行為をされたときとか、そういう形で限定して移転の可能性を認めている。そういう方向でいくしかないんじゃないかと思います。
○坂本参考人 ありがとうございます。
人権侵害ですけれども、一つぜひ申し上げたいことですけれども、私も多く実習生に接してまいりましたけれども、実習生たちは本当に非常に大きな夢を持って日本に来ている。子供のころから、日本というのは、技術の進んだ、アニメ、コスプレなんかも含めた文化的な魅力があって、本当にいつか行きたいと思っていた、その夢が実現したということで来られるわけですね。ただ、一旦会社に入ると、初日から残業、時給三百円ということで、そういう夢が打ち砕かれるということがあってはならないというふうに思います。
介護に関しては、一言だけですけれども、台湾が今、五十五万人ぐらい海外労働人材を入れていますけれども、製造業が六〇%です。残り四〇%は家庭内介護、看護です。台湾で今一番問題になっているのは、家庭内介護、看護で起こる人権侵害です。だから、家事労働で単独でいくというようなことがもし想定されているということなのであれば、非常に憂慮すべきことではないかなと思います。
それから、移転ですけれども、これは、実習実施機関と実習生の関係はやはり対等ではないわけですし、人権侵害が生じている場合、実習生はおびえている中で、まともな技術修得、それを海外移転ということにならないわけでして、制度の趣旨からいっても、本人の責に帰さない事由の場合はもちろんですけれども、複数のところで技術を学ぶということがより高度なことになるというケースもあり得るわけです。システムとして保障するということは、必要な選択肢かと思います。
○後藤参考人 人権侵害の問題と実習先を変更する問題について考えを述べさせていただきます。
まず、人権侵害の問題でございますけれども、これは、言うまでもなく、全ての受け入れ事業者に起きていることじゃなくて、一部分の不心得なところで問題になって、その問題の程度が、非常に大問題になること、ひどいことをやっているような状況が生じています。
であることを考えますと、まず、そういうよろしくないところに実習生を行かせないような仕組みが重要だと思います。
今、団体監理型では、比較的容易に、どこにでもと言っては語弊がありますけれども、配分されているようなところがあるようですけれども、それを、多賀谷先生もおっしゃいましたように、きちんとした監理団体をつくって、ちゃんと受け入れ先を審査して、そういうことをやらないようなところに行かせるということがまず重要だと思います。その上で、体制を整備しても起きる可能性はございますので、行政なんかがしっかりしまして、そういう侵害事件に関しては今までよりもより一層厳しい立場で臨むということですね。だから、配分をきちんとするということと、起きた場合には厳しく取り締まるという二つのことをやっていくということが重要だと思います。
実習先を変更する問題、これについては非常に難しい問題だと思いますが、まず、変更したくなるようなことが起きるというのは、さっきの人権侵害問題等が密接に影響していると思うんですよね。非常にいい処遇を受けている場合であれば特段別のところへ行こうということはないのであって、だから、一番の人権侵害に対する対策が完全に確保できれば、かなりの程度、変更しようとするインセンティブは減るのではないかと思います。
それでも変更するという場合、例えば私が慶應大学で教えている留学生がどうしても早稲田に行きたいというのであれば、もう一回早稲田の方でしっかり審査をしてもらって受け入れるのであれば、それはそれでいいのかなという気もいたします。
○葉梨委員長 では、根本参考人。追加の発言があるようです。
○根本参考人 追加というか、私の発言が何かもし誤解を生んでいたらいけないなと思って、ちょっと一言ですが。
今回の、技能実習制度に関しまして介護職種を追加することについて、在宅サービスと申しますか、一対一の訪問系のサービスというのは全く想定をしていないということでございます。それについては強く申し上げさせていただきたいと思います。
○畑野委員 皆様、ありがとうございました。
移転の話にもかかわるんですが、先ほど、高額な保証金の話がありました。それで、それを解消するというか、保証金を取らないというふうにするという点で、坂本参考人の方で何か具体的な例がありましたら教えていただきたいと思います。
○坂本参考人 保証金の件ですけれども、アジアの場合、送り出し国が基本的には多くて、受け入れているのは韓国、台湾、日本と、比較的数は限られております。
台湾も人口二千三百万に対して五十五万人受け入れています。数でいうと、実態的には、人口差も考えると日本の十倍ぐらいなんですけれども、私ども、十年ぐらいフォローしていますけれども、台湾で保証金問題が出ているということはほとんど聞いていないです。
それから、ASEANの中でも、送り出しつつ入れるということも多々起こっているんですけれども、日本のような一万ドルを超える保証金の存在ということはほぼ確認できておりませんでして、韓国がなくなったということも、韓国の場合はあったけれどもなくなったという意味では、韓国は非常に特徴的ですね。百万円を用意するか、その必要がないかということになると、日本が選択肢から落ちるということが今後十分想定されるかなというふうに考えます。
○畑野委員 今のお話、先ほどの移転の話も含めて、自分の意思でかわることができるということなどを含めて、坂本参考人、もう少し詳しく海外の実例を教えていただければ幸いです。
○坂本参考人 後藤参考人の方から新しい制度設計の必要性ということでお話しいただきましたので、私は韓国のお話を少しさせていただきますけれども、韓国というよりも、新しいイメージとしてどういう可能性があり得るのかということで少しお聞きいただければ幸いです。
韓国は、一九九三年に産業研修生制度というのをとりました。これは、実は日本の実習生制度をまねて入れた制度なんですね。これは民間・民間の関係でしたので、受け入れも民間、送り出しも民間でしたので、ここもまねたのかと思うんですけれども、非常に高額な保証金がありました。パスポート取り上げとか、差別、暴力もございましたし、本当に驚く数字ですけれども、そういう中で、全体の失踪率が五〇%を超した、二人に一人がいなくなったということが起こりまして、これではいけないということになって、雇用許可制と言われるものが導入されたのが二〇〇四年のことでした。
一つきょう御紹介したいのは、受け入れプロセスが非常に透明化されたということで、ここから日本が学ぶことは大きいのではないかということです。韓国の場合は、従業員三百名以下の中小企業にこの雇用許可制というのが適用されます。その企業が十四日間公募をかけたけれども、応募がない部分を海外人材で埋めていいという許可を国が与える、その雇用許可を与えるという意味で雇用許可制という名前になっております。
一番大きく変わったのは、韓国は、相手の国とも必ず全部二国間協定を結んで、相手国にも不正な派遣を禁じているということなんですね。全てのプロセスを国が管理しているんです。選抜もそう、導入もそう、監理もそう、それから帰国支援も、全て民間を排して、韓国の場合は雇用労働部というんですけれども、ここが管轄をするということなんです。送り出しも民間機関はだめだと。日本の実習生制度は全部民間ですよね、中国もベトナムも。ベトナムは、派遣機関が七十からあっという間に二百を超えましたけれども、全部民間なわけですね。そうじゃない、国がやるべきだということに制度上なっているわけですね。
そういうことですので、民間の介在余地がなくなったということです。民間が介在すると、利益を生まないといけないので、必ず余計なお金が必要になるということなわけですね。
ここに全体のプロセスが透明化をされたということが非常に重要だと思います。つまり、民間・民間、プライベート・プライベート、PツーPから、ガバメント・ガバメント、GツーGに、そういう管理への転換が行われたということです。
日本ではもちろんそうはなっておりませんでして、JITCOが一部関与しますけれども、実態的には監理団体が関与することでさまざまトラブルが起こっているケースもあるわけです。後を絶たないということですので、可能なところからGツーGへと切りかえていく、がらっと制度を変えるというよりも、国の関与をさらに深めて、できるところからGツーGへと切りかえていくという決断が非常に実態的ではないかなというふうに思います。
ブローカー、実習実施機関の不正に対して、新しくできる機構の体制がこれで十分かどうかという議論をこの委員会でもやっていただきましたけれども、この新しい機構は、やはり受け入れ業務が中心ということになるかと思います。本部八十名、全体で三百三十名という体制で不正に介在するブローカー問題なんかも含めて取り締まるのは、やはり極めて厳しい。何というか、できないことをできるというふうにはやはり言わない方がいいのではないかなというふうに思います。
根本的には、そういう違法が介在できるというシステム自体を変えていくということ、日本でもそういう大きな転換が必要になってくるのかなというふうに考えます。
○畑野委員 ありがとうございました。