第189回国会 2015年9月3日本会議
人権侵害を拡大する外国人技能実習生制度
外国人技能実習生制度改定法案審議入り 畑野議員が指摘
外国人技能実習「適正化」法案が3日の衆院本会議で審議入りしました。法案は、外国人が日本で働きながら技能の習得をめざす技能実習制度を「適正化」し「拡充」を図るとしています。日本共産党の畑野君枝議員が質問し、「外国人技能実習制度は、技能移転と国際貢献を名目にしながら、実態は低賃金・単純労働力の受け入れという構造的矛盾を抱え、深刻な人権侵害を生み出してきた。『適正』『保護』をいうなら、この構造的矛盾を解決しなければならない」と主張しました。
技能実習制度は、当初から外国人労働力の供給手段とされ、ピンハネ、強制貯金、パスポート取り上げ、強制帰国、性的暴行など数々の人権侵害を引き起こしています。
畑野氏の指摘に対し、塩崎恭久厚労相は「一部、制度趣旨を逸脱した運用で国内外から批判を受けている」と答弁。上川陽子法相も「一部で制度趣旨が労働力の確保策と誤解され問題が生じている」と述べ、問題点を制度利用者のモラルにすり替え、構造的矛盾を解決する姿勢を見せませんでした。
畑野氏は、こうした人権侵害の背景に、母国での貧困・生活苦のもと、家族への仕送りの期待や憧れを持って来日する外国人労働者を食い物にするブローカー(あっせん機関)が存在し、「国際人身売買」と呼ばれる実態があると指摘。「母国の送り出し機関が、高額な保証金や違約金をとる悪質な行為を規制するべきだ」と迫りました。
上川法相は悪質なブローカーの存在を認めたうえで、「送り出し国政府の協力を得て、不適正な送り出し機関を排除する仕組みとしたい」と述べました。
畑野氏は、低賃金・低待遇に苦しむ実習生の実態を具体的に示し、「実習期間の3年から5年への延長、受け入れ人数枠の拡大、対象職種の拡大は、技能実習制度のもつ深刻な問題を拡大するだけだ」と指摘しました。
( 「しんぶん赤旗」2015年9月4日付け )
【会議録】
○畑野君枝君 私は、日本共産党を代表して、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案について、関係大臣に質問します。(拍手)
外国人技能実習制度は、技能移転と国際貢献を名目としながら、その実態は、低賃金、単純労働力の受け入れであるという構造的矛盾を抱えたまま、深刻な人権侵害を生み出し続けてきました。
政府が適正や保護を言うのなら、この構造的矛盾を解決しなければなりません。厚生労働大臣にその認識はありますか。
もともと外国人の就労を原則認めない政府のもとで、この制度は、外国人研修制度として制度化された当初から、研修とは名ばかりの外国人労働力の供給手段とされ、強制労働、低賃金、残業手当不払い、ピンはね、強制貯金、パスポート取り上げ、高額の保証金や違約金、強制帰国、セクハラと性的暴行など、数々の人権侵害が続発し、重大問題となってきました。
厚生労働、法務両大臣は、その実態をどのように把握していますか。答弁を求めます。
こうした外国人実習生の実態に対して、日本弁護士連合会は、人権侵害は構造的問題に起因するとして、その早急な廃止を求めています。
国連自由権規約委員会は、性的虐待、労働に関する死亡、強制労働を指摘し、米国務省は、労働搾取や人身売買への懸念を表明するなど、国連人権機関、国際社会から国際人権規約に違反していると指摘され続けていることについて、どのようにお考えですか。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
その大きな原因に、悪質ブローカーによる研修生ビジネス、国際人身売買と呼ばれてきた実態があります。中国やベトナム、フィリピンなどの十代、二十代の外国人労働者が、母国での貧困、生活苦のもとで、家族への仕送りができると、日本への憧れを持って来日する。その思いを食い物にする悪質ブローカーが横行してきたのに、政府はその根絶のための対策をとってきたとは言えません。
大臣は、このブローカー行為の実態をどのように把握していますか。母国の送り出し機関による高額な保証金や違約金を取るなどの悪質な行為をどのように規制するのですか。本法案の人権侵害の禁止規定や罰則は、母国の送り出し機関やブローカーに適用されるのですか。答弁を求めます。
二〇一〇年の入管法改正により、それまでの研修を技能実習にかえて労働関係法令を適用するとともに、監理団体を設けました。しかし、技能実習生をめぐる悪質な人権侵害の状況は引き続き深刻です。
法務大臣、実習生の失踪件数は、二〇一〇年の一千二百八十二人から二〇一四年には四千八百五十一人と四倍にふえ、過去最高となっているのが実態ではありませんか。
あるベトナム人技能実習生は、日本で働けば月給二十万円から三十万円、一日八時間、週五日勤務で土日は休み、寮ありと聞き、仲介会社に約百五十万円を支払い来日しましたが、毎日早朝六時から深夜二時まで働き、休みはなし、寮は農機具の保管場所で、家賃として月額二万円が給料から天引きされ、手元には六万円程度しか残らない、それでも可能な限り三万円から四万円を母国に仕送りする生活が七カ月続いて、頑張ったが、疲れてしまい、逃げ出したというのです。
先日NHKが報道した女性の外国人技能実習生は、会社の寮の一部屋に五人の実習生が押し込められ、手取り十万円から家賃四万円を引かれる。その上、二年間は外泊の自由がない。本人は、監禁だと訴えていました。
この深刻な実態を法案は解決できるのですか。両大臣の明確な答弁を求めます。
法案は、外国人技能実習機構を新設し、実習生受け入れ企業やその企業を監理する団体への監督を強化するとしています。しかし、この機構には、報告、実地検査などの権限しかありません。強制的立ち入り権限を持たずに、どうして十分な監視、監督ができるのでしょうか。
また、法案は、技能実習三号を新設し、受け入れ企業や監理団体が優良と認められれば合計五年間の実習を可能にするとしていますが、企業が優良というのは、どのような調査に基づき、何を基準に判断するのですか。
実習期間の三年から五年への延長、受け入れ人数枠の拡大、対象職種の拡大は、技能実習制度の持つ深刻な問題を拡大するだけではありませんか。答弁を求めます。
最後に、安倍内閣の日本再興戦略のもとで進められている外国人労働力の受け入れ拡大の問題です。
本年四月から、オリンピックや震災復興の建設需要に対応する緊急措置と称して、建設分野で三年の技能実習終了後に二年ないし三年間、建設労働に従事することができる制度を発足させました。また、介護分野にも技能実習制度を拡大し、入管法改正で介護の在留資格を新設しようとしています。さらには、国家戦略特区における外国人家事支援の実施も検討されています。
財界の要求に従ったこれらの外国人労働力の受け入れ拡大は、低賃金と劣悪な労働条件を一層深刻にするものではありませんか。
以上、政府の明確な答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣塩崎恭久君登壇〕
○国務大臣(塩崎恭久君) 畑野君枝議員にお答えを申し上げます。
技能実習制度の趣旨と実態との関係についてのお尋ねがございました。
技能実習制度については、技能移転による国際貢献を目的とするものでありますが、一部においてこの趣旨を逸脱している事例が見られることは認識をしており、こうした事実に対処するため、この法案を提出したものでございます。
技能実習制度に対する人権侵害行為との指摘への認識についてのお尋ねがございました。
技能実習制度は、一部において制度の趣旨を逸脱した運用によって人権侵害行為等の問題事案が生じ、これにより国内外から批判を受けていると承知をしております。そこで、制度の適正化を図るため、本法案を提出いたしたところでございます。
ブローカー行為の実態や保証金等の徴収の規制についてのお尋ねがございました。
実習生から保証金の徴収や不法就労の助長などを行う悪質な機関が存在することは承知をしております。新制度においては、送り出し国と国レベルの取り決めを作成し、相互に密接に協力、連携しつつ、不適正な送り出し機関の排除等に取り組んでまいります。
人権侵害の禁止規定等の外国への適用についてお尋ねがございました。
外国の送り出し機関による保証金の徴収などについては、現行制度と同様に、新制度でも禁止いたします。罰則は外国での行為には直接執行できないことから、実効的な取り締まりには、二国間の取り決めを作成して送り出し国の政府の協力を得ることが重要と考えております。
実習生の待遇に関する深刻な実態についてのお尋ねがございました。
この法案では、労働関係法令などに関し不正な行為などが発生した場合、技能実習計画の認定を取り消し、実習の継続や新規受け入れを認めないこととするほか、外出の不当な制限などの人権侵害については、罰則をもって禁止をしております。
外国人技能実習機構の監視、監督権限の実効性についてのお尋ねがございました。
機構には実地検査などの権限が法律上与えられており、仮にこれを拒んだ場合には、新たな計画の認定を行わないほか、既に認定した計画についても必要に応じ取り消しを行うことになるため、この枠組みには十分な実効性が確保されていると考えております。
優良と判断する基準についてのお尋ねがございました。
本法案では、受け入れ企業や監理団体について、それぞれ求められる能力が高い水準を満たすものについて優良と認めることとしており、具体的には、適切な相談指導体制の整備、実習生の技能評価試験での一定の合格率等の意見が法務省・厚生労働省合同有識者懇談会において出されていることを踏まえ、今後検討することとしております。
技能実習制度の拡充についてのお尋ねがございました。
実習期間の延長などの技能実習制度の拡充については、優良な受け入れ機関に限って認めるものであることから、技能実習の適正な実施へのインセンティブが高まり、制度本来の趣旨に沿った運用に資するものと考えております。
外国人の受け入れ拡大に伴う労働条件の低下についてのお尋ねがございました。
外国の方々についても、日本人と同様労働関係法令が適用され、日本人の報酬と同等額以上の報酬を受けることを入管法の上陸許可の要件としており、厚生労働省としては、引き続き適正な労働条件の確保や雇用管理の改善に努めてまいります。
以上でございます。(拍手)