第189回国会 2015年8月5日法務委員会
盗聴法大改悪は違憲!
日本共産党の畑野君枝議員は5日の衆院法務委員会で、刑事訴訟法等改定案に盛り込まれた盗聴法の大改悪は通信の秘密、プライバシーの権利を侵害する憲法違反であり、政府の恣意(しい)的な合憲性の説明は成り立たないと批判しました。
畑野氏は、法務省が「必要最小限度の制約が許されるのは憲法解釈の常識」と説明していることについて、多くの異論がある中で「非常識だ」と指摘。上川陽子法相が対象犯罪の拡大について「情勢の変化」を理由にしていることに対して、「容易に対象犯罪が拡大される恐れがある」と批判しました。上川法相は「憲法が規定する通信の秘密を侵してはならない」としか答えられませんでした。
法案の「傍受禁止規定」は弁護士などの職業に適用されますが、運用は捜査官にまかされています。法務省の林真琴刑事局長は、国会議員には「傍受禁止規定」は及ばないと認めました。
畑野氏は、憲法が刑事手続きについて10カ条にもわたり人権保障をしているのは戦前の特高警察や暗黒裁判への反省によるものであり、「刑事手続きにおいて人権が侵害される危険性が高いからだ」とし、憲法違反の法案の撤回を求めました。
( 「しんぶん赤旗」2015年8月9日付け )
【会議録】
○畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
刑事訴訟法等一部改正案のこれまでの審議によって、政府案は、当初言われたような冤罪を防止するための法案ではなく、盗聴法の拡大、要件緩和と司法取引の導入を柱としたものであること、そこには、憲法と、捜査、刑事裁判における人権保障と適正手続に重大な問題があることが浮き彫りになりました。したがって、さらに徹底審議が必要であるという立場で質問をしたいと思います。
先日、NHKの「所さん!大変ですよ」という番組で、ある盗聴事件が放送されました。番組ホームページの説明には次のようにあります。「今回取り上げるのは、西日本のある街で起きた“個人情報流出事件”。二十代女性のプライベートな情報が流出。その中には、部屋の中での会話まで含まれていたという。しかも、そのことに女性は全く気付いていなかったというのだから驚きだ。使われたのは女性のスマホ。全く気づかない間に、男に乗っ取られ、盗聴までされていたというのだ。」ということです。そして、番組で、犯人は、刑法第百六十八条の二第二項、不正指令電磁的記録供与罪により、懲役三年、執行猶予五年の刑に処せられたと報じられております。
伺いますけれども、不正指令電磁的記録に関する罪の認知、検挙件数はどのようになっていますか。
○河合政府参考人 お答えいたします。
不正指令電磁的記録に関する罪の認知件数につきましては、平成二十四年が五十七件、平成二十五年が三十九件、平成二十六年が三十件となっております。また、検挙件数につきましては、平成二十四年が四十一件、平成二十五年が二十七件、平成二十六年が二十八件となってございます。
○畑野委員 今の状況については、警察庁の資料をいただきまして、資料の一枚目につけさせていただいております。二〇一一年に施行されたばかりの法律です。
捜査に当たった広島県警サイバー犯罪対策課の警部は、被害者の女性に犯罪事実を説明したときのことを次のようにコメントしております。犯人が当時の交際相手だったと告げるまで、非常に信頼していろいろな相談をしていましたので、かなりショックを受けてその場で泣き崩れる状態でした、非常に新しい犯罪だし、恐ろしい犯罪と言っているんですね。このように、個人の通信の秘密、プライバシーの権利を侵害する盗聴行為というのは、現職の警察官でさえ恐ろしい犯罪だと言っております。
上川法務大臣と山谷国家公安委員長にこの件について御所見を伺いたいと思いますが、いかがですか。一言で結構です。
○上川国務大臣 個人のプライバシーに係る極めて重要な事件だというふうに思っております。
○山谷国務大臣 新しいテクノロジーによりそうした恐ろしいことが起きるという認識のもとに、また治安の向上に努めていきたいと思います。
○畑野委員 お話があったように、盗聴が個人の通信の秘密、個人の人権を侵害する極めて重大な行為であるということは、この事件からも明らかだと思います。こういうことを本当になくさなくちゃいけないわけですね。しかし一方で、現行通信傍受法、いわゆる盗聴法はどうか。通信の秘密、プライバシーの権利を侵害する憲法違反の法律であると言われてきたわけです。
そして、今回の、特に通信傍受法、盗聴法の改悪については、現在、全国から大きな反対の声が上がっております。私も、横浜弁護士会会長の反対声明を竹森裕子会長御本人から直接いただきました。それは資料の二枚目と三枚目につけさせていただいております。会長声明は、通信傍受について、「このような対象犯罪の安易な拡大は、先の最高裁判例に照らしても、憲法上許されないものというべきである。」として、通信傍受の対象犯罪の安易な拡大は明確に違憲であると断言されております。
そもそも、憲法で保障された通信の秘密、プライバシー権は、人権の中でも、民主主義の根幹をなす極めて重要な権利であります。
先日の参考人質疑で、長澤彰参考人は、「なぜ精神的自由権が大切なのか。まさに民主主義社会を形成するための基本的な権利だからなんです。これなくして民主主義社会はあり得ない、」こうおっしゃっておりました。国会で審議される法案について、国家の根幹である民主主義を破壊することになるから憲法違反であるという厳しい指摘がされるということはまれだと思うんですね。
このような声について、上川法務大臣はどのように思われますか。
○上川国務大臣 憲法二十一条に規定をしている通信の秘密ということでございます。これは、「侵してはならない。」と憲法に規定されているとおり、大変大事な基本的人権だというふうに思っております。
○畑野委員 だから今の法案が問題だという声が上がっているということなんですね。そこについての言及がございませんでしたけれども、こういうことを進めたら、本当に国民の信頼を失いかねないというふうに私は言わざるを得ません。
それで、この間、法案を出す上で、合憲性を担保する根拠として法務省は何と言ってきたか。
資料の次のところにありますが、公式ホームページのQアンドAで次のように書いているんですね。「通信の秘密の保障も、絶対無制限のものではなく、公共の福祉の要請に基づく場合には、必要最小限の範囲でその制約が許されるということは、憲法解釈の常識です。」私にとっては非常識なホームページだと思いますよ、多くの異論の声があるわけですから。
それで、伺いたいのは、この場合の必要最小限の範囲というのはどのように判断をされるのか、その基準について具体的にお答えください。
○林政府参考人 通信傍受は憲法二十一条第二項の保障する通信の秘密を制約するものでありますので、その制約は必要最小限度の範囲にとどめなければならないわけでございます。
現行通信傍受法による通信傍受は、一つには、別表に掲げるような重大な犯罪についての高度の嫌疑があり、犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信が行われる蓋然性が認められ、他の方法によっては事案を解明することが著しく困難であると認められるときに、傍受すべき通信が行われる蓋然性のある特定の通信手段に限って、裁判官の発する傍受令状により行うことが許されるものとされておりますので、これによって、通信の秘密の制約は、必要やむを得ない場合に限定されているわけでございます。
さらに、傍受の実施の際に行われる該当性判断のための傍受も必要最小限度の範囲に限定されておりまして、犯罪とは無関係の通信が傍受される場合においても、その範囲は断片的なものにとどまるわけでございます。
その上に、犯罪に関連する通信とは認められなかった通信の記録は、傍受記録の作成の際に消去され、捜査官の手元には残されず、捜査官はその内容を使用してはならないこととされております。
また、傍受の原記録というものは、裁判官が保管して、事後的に検証されることが制度的に保障されております。
こういった制度のつくりによりまして、現行通信傍受法は、傍受に伴う通信の秘密に対する制約を必要最小限のものにする制度的な仕組みが設けられていると考えております。
○畑野委員 厳格な要件になってこなかったから今議論になっているんじゃありませんか。何度繰り返しても答えになりません。
上川大臣は、五月十九日の本会議で、現行盗聴法について次のように述べられました。「対象犯罪については、平穏な社会生活を守るために通信傍受が捜査手法として必要不可欠と考えられる最小限度の組織的な犯罪に限定」されるとおっしゃりながら、直後に、「通信傍受法の改正による対象犯罪の拡大は、通信傍受の運用状況や現時点における犯罪情勢、捜査の実情等を踏まえ、現に一般国民にとって重大な脅威となり、社会問題化している犯罪であって、通信傍受の対象とすることが必要不可欠」と、必要最小限度の判断を、社会情勢の変化を理由に簡単に変容させているんですね。何かの法案と同じじゃありませんか。戦争法案がこの問題で今、大問題になっているわけです。
現行法で、必要最小限度として、暴力団等による組織犯罪四類型に限定したと言ってきたにもかかわらず、これを広く日常的な犯罪に広げる、その立法事実があるということは、当委員会では示されていないじゃありませんか。このような基準では、将来も安易に対象犯罪が拡大されるおそれを否定することはできないと思いますが、いかがですか。
○林政府参考人 今回の対象犯罪の拡大に当たりましても、現行の対象犯罪、いずれも重大犯罪という形での限定がなされておりますけれども、今回の対象犯罪を拡大するに当たりましても、当該犯罪が通信の秘密を制約するに値する重大な犯罪であるかどうか、あるいは、さらにそれに加えまして、実際に通信傍受が有効な犯罪類型であるか、また、実際にそのような犯罪が社会の脅威となっているかどうか、こういったことを判断の基準といたしまして、拡大すべき対象犯罪として選択したものでございます。
○畑野委員 人権の制約の基準としては全く無意味な御答弁です。法的な安定性に欠けると私は言わなくてはなりません。人権制約が最小限度である根拠とされた常時立ち会い制度も外すというんですから、この点でも整合性がないわけですね。
伺います。
通信傍受令状を発付するときに、その適法性に加えて、当然、人権侵害の可能性があり得るかどうかということも、必要最小限度の判断を裁判官がすることになると思うんですけれども、これはどのような資料に基づいて判断するのか、ちょっとお聞かせいただけますか。事前に言っていないことかと思うんですが、答えられたら言ってください。
○平木最高裁判所長官代理者 委員お尋ねの点は、個別事件におきまして裁判官がどのような判断をするかということですので、お答えは差し控えさせていただきたいと思います。
○畑野委員 こういうことも明らかにならないわけですよね。ですから、本当に人権がきちんと担保されているのか、この制度そのものが問われてくるというふうに言わなくてはなりません。
そこで、上川大臣に伺いたいんですけれども、憲法が刑事手続について十カ条も使って述べているんですね。人権規定を置いているのは第十条から第四十条までなんですが、この中で、第三十一条から第四十条まで、刑事手続について詳細に人権保障をしている。これはどういう意味であるか、伺いたいと思います。
○上川国務大臣 今委員御指摘の条文でございますが、憲法の第三章の国民の権利及び義務に係る規定ということでございまして、そのうち十カ条につきまして刑事手続に関する規定に費やしているということでございますが、このことにつきましては、捜査官憲によります人身の自由の過酷な制限を徹底的に排除するためのものであるというふうに理解されていると承知をしているところでございます。
○畑野委員 人権が侵害される危険性が高いということとともに、やはり、戦前の特高警察、強権捜査、国民監視と暗黒裁判という、戦前の教訓による深い反省によるものだろうというふうに私は思うんです。憲法尊重義務のある法務大臣として、この憲法の要請を軽視することになるんじゃないかということでこの問題を指摘してきたわけですね。
刑事手続において人権が侵害されれば取り返しのつかないことになるというのは、冤罪事件の被害者である桜井昌司さん、盗聴事件の被害者である緒方靖夫さんの話からも私たちは伺ったわけです。だから、憲法は詳細に手続の重要性を規定してきたということです。
時間が迫っておりますので、次に、傍受禁止規定について伺いたいんです。弁護士が規定されている問題で伺います。
今回、対象犯罪が大幅に拡大いたしまして、対象事案も大幅に増加されることが予想されます。それで、傍受禁止規定というのは従前のままに出されております。
今回もう一回聞きたいんですが、法案の第十六条に、「医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人又は宗教の職にある者との間の通信については、他人の依頼を受けて行うその業務に関するものと認められるときは、傍受をしてはならない。」という規定を置いております。これは具体的にどういうことですか。
○林政府参考人 現行の通信傍受法でいいますと十五条となりますが、その規定における傍受の禁止は、依頼者との個人的な信頼関係に基づいて個人の秘密を委託されるという社会生活上不可欠な職業に対する社会的な信頼の保護を図るものでございます。
したがいまして、その対象となる通信は、弁護士等が委託者の依頼を受けて行うその本来的な業務に関するものに限られまして、例えば、弁護士事務所の経営に関する通信等は含まれず、また、弁護士等が被疑者であって、その旨傍受令状に明示されている場合はその者との間の通信については傍受が禁止されない一方で、他人の依頼を受けて行うその業務に関するものであれば、他人の秘密に関するものであるか否かを問わずに対象となるわけでございます。
傍受した通信が他人の依頼を受けて行うその業務に関するものに該当するか否かは、傍受を行う捜査官がその内容から判断することとなりますけれども、傍受した通信は、全て記録媒体に記録され、事後的な検証の対象となり得ることから、捜査官による恣意的な判断が行われる懸念はないと考えております。
○畑野委員 傍受をしてはならないと、それを判断する権限を持つのは誰ですか。
○林政府参考人 傍受した通信が他人の依頼を受けて行うその業務に関するものに該当するか否かは、傍受を行う捜査官がその内容から判断いたします。もとより、その傍受した通信は、全て記録媒体に記録されて、事後的な検証の対象となります。
○畑野委員 捜査機関が判断するのでは、この法文自体が適正に運用される制度的保障はないということを言わなくちゃいけないんですね。まさに、通信の秘密、プライバシー権に最もかかわる仕事じゃありませんか。
私、聞きますけれども、傍受禁止規定に政治家、議員は入っていないですよね。確認と、その理由を一言で言ってください。
○林政府参考人 現行の十五条の傍受の禁止の規定でございますけれども、これは、依頼者との個人的な信頼関係に基づいて個人の秘密を委託されるという社会生活上不可欠な職業に対する社会的な信頼の保護を図るという規定でございます。
そこで、今回、この十五条に列挙されているのは、医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人または宗教の職にある者という形で限定されているものでございます。
○畑野委員 ここにいらっしゃる衆議院議員の皆さんも傍受の対象になるという御答弁だったというふうに思います。
しかし、実際には、我々の活動というのは、国民の皆さんの負託を受けて、電話やメールでその大変な状況の御相談にも乗るわけですよね。ですから、この制度そのものが、いろいろ禁止規定をつけたって、誰かが聞くとなったら、それは運用で幾らでもやれるじゃありませんか。そういう点では、弁護士である議員の皆さんも傍受の対象になるということです。
私、時間がもう本当にないので、この間、報道機関についても伺ったんですね。
それで、資料は出しているんですが、もうお聞きする時間がないので、これは法律にはない、そして通達になっているというふうに伺っております。
それで、通信の当事者が報道機関であるかどうか、これは誰が判断することになりますか。
○林政府参考人 この場合は、傍受を実施している捜査官が判断することになります。
○畑野委員 では、警察庁、法務省の通達による運用が適正になされているのか、どのように検証されているんですか。
○林政府参考人 これまでの実施において、検察官における傍受という実績はございません。
○畑野委員 結局、犯罪を追及する目的で取材を重ねている場合も報道機関はあるわけですよね。そういう点では、傍受の対象になるといったら、取材の萎縮効果になるじゃありませんか。最高裁は、報道の自由を守れと言っているわけですよね。憲法上の権利なんですよ。
時間が参りましたが、現行法でも、そして今後の法改正でも、問題点は山盛りですよ。憲法に照らして、私たちは憲法に基づく法務委員ですから、こんな法案の採決は許されないということを申し上げ、廃案を重ねて強く訴えて、私の質問を終わります。