第189回国会 2015年5月13日法務委員会

裁判員除外 良くない

畑野議員の質問に参考人が発言

 衆院法務委員会は12、13の両日、裁判員法改定案の参考人質疑を行いました。13日の質疑で日本共産党の畑野君枝議員が質問しました。

 同改定案は、「著しく長期にわたる事件」を市民参加の裁判員裁判の対象から除外することを職業裁判官のみが判断し、市民裁判員は決定できません。

 畑野議員に対し裁判員ネット代表理事の大城聡弁護士は、「恣意(しい)的または安易に長期の事件が除外される」のは「裁判員に裁判への参加を求めながら、一方で除外する」ということで良くないと発言しました。また、守秘義務の問題や裁判員の心のケアなどが法案に盛り込まれていないことから、「見直し規定」が必要だと主張しました。

 望月晶子弁護士は、被害者のプライバシーを保護するとともに対象事件の範囲の検討が必要であると強調しました。

 被害者遺族である荻野美奈子氏は裁判員裁判について、自分が言いたかったことを裁判員が法定で言ってくれて「よかった」と答えました。

( 「しんぶん赤旗」2015年5月15日付け より ) 

 【会議録】

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 望月晶子参考人、大城聡参考人、荻野美奈子参考人、本日は、貴重な御意見をいただき、本当にありがとうございます。
 荻野参考人には娘さんの話を伺わせていただきまして、胸が詰まる思いでございます。心からお悔やみを申し上げます。
 まず、三人の参考人の皆さんにお伺いしたいんですけれども、裁判員裁判が始まりまして、国民の参加ということが大きく期待をされてまいりました。その国民参加の意義についてどのようにお考えになるのか、それぞれの立場からお話しいただけますでしょうか。
望月参考人 私自身は、弁護士をしておりますので、司法界の中に身を置いているので、自分がそういう仕事をしていて、ほかの人にとってこんなに司法というのが縁遠いと感じられているとは思っていなかったといいますか、やはり弁護士に相談するのはなかなかハードルが高いですとか、えっ、裁判なんてと言われることはすごく多いですね。
 そういう意味で、裁判員裁判が導入されて、一般の、通常であれば人生で裁判にかかわるような機会がないような方たちが、もしかしたら裁判にかかわるかもしれないという思いを持ってくださったり、裁判員裁判を経験されることで司法が身近になっていく、これは非常によいことだというふうに私は思っております。
大城参考人 二つありまして、一つは、裁判所は非常によくしてくれているというのは経験者の方からもお話を聞くんですけれども、決してお客さんになってはいけないなと。主体的に参加をして、時には、裁判官と違う見方であっても、私はこう思うと、そこをちゃんと言うところまで含めてやはり参加の意味があると思うんですね。単に裁判所に呼ばれたから行きました、よくしてもらって、調査をしたら満足でしたということでは、それは司法に対する参加というふうにはならないので、主体的参加というのは極めて大事だと思っています。
 もう一つ、経験者の方のお話を聞いていて思うのは、裁判員としての役割をしなければいけないというふうに非常に強く感じていらっしゃる。それは、裁判員になったので公平に判断をしなければいけないという形で、感情的になってはいけない、もちろん、しっかりとお話を聞いて、感情を受けとめた上で判断をしなきゃいけないんだけれども、自分自身が感情的になってはいけないので、裁判員としてしっかりと判断をしなければいけない。
 そういう意味で、参加の中には、単に裁判所に行くという意味ではなくて、司法の役割を、その人自身も、国民も一人の人間として果たすんだ、そういう感想を言っている方が非常に多くて、それは、この裁判員制度をやった参加の意味というものが出てきているのではないかなというふうに感じております。
荻野参考人 私は被害者側の立場でしか発言はできないんですが、被害者にとっては、裁判員裁判で、一般の方々が一緒に考えてくださっているということが伝わってくるんですね。自分が直接犯人に尋問をしたいときには、前もって裁判所の方から、犯人を直接攻撃するような質問は絶対したらいけないと言われるんです。そうしたら、どんな質問を私はしたらいいのと、弁護士の先生と考えて、私はこんな質問をしたいのに、なぜそれを言ったらいけないんですか。犯人にプレッシャーを与えるからやと言うんですよね。何か変な決まりやなと思いました。
 ところが、裁判員の方は、私にかわって、私がこんなことを質問したいんじゃないかなと、そう思っておられるかどうかはわかりませんけれども、そんな質問をずばずばしてくださるんですね。だから、ああ、よかったなと思いました。
 先ほど申し上げるのをちょっと忘れたんですが、裁判員裁判は二審、三審と持ち上げてもいいんじゃないかなということをもう一回申し上げます。
畑野委員 次に、望月参考人に伺います。
 参考人は、裁判員裁判の対象犯罪について先ほどから御意見を述べられました。それで、荻野参考人のお話も伺いながら、またそれを深めていらっしゃるということも伝わってまいりまして、こういう参考人の皆さんから私たちも本当に学ばせていただいて、また一緒に考えていかなくてはいけないというふうに思っているんです。
 被害者のプライバシーを完全に守ることは困難だということもその理由として挙げられていらっしゃるんですが、そのあたりを含めて、もう少し詳しくお話しいただければと思います。対象犯罪の問題です。
望月参考人 今おっしゃっていただいた被害者のプライバシーの問題、もしこれが一〇〇%保護されるのであれば、私は、対象犯罪であることもいいのかなというふうに思っています。
 ただ、現在では、起訴状に被害者の氏名等を記載しない、匿名にするというようなことを検察庁の方で頑張ってやってくださっていますけれども、裁判所の方でこれを認めない、受け付けないというような、今、そういう問題が起きていまして、仮に起訴状が匿名にできたとしても、そこから先、証拠の中で被害者の名前を出さずにやれるのかとか、あと、先ほども申し上げましたように、被害場所が自宅であったような場合に、場所まで隠すということは恐らくほぼ困難だと思うんですね。
 そういったいろいろな問題を全てクリアして、被害者の名前もわからない、住所もわからない、顔も出ないというようなことができれば、対象犯罪のまま残すということもあり得るんじゃないかというふうに思います。
畑野委員 ありがとうございます。
 次に、大城参考人に伺います。
 「裁判員制度 市民からの提言 二〇一四」も、きょう皆さんいただいているんですけれども、市民が主体的に参加できる土壌をつくるためには裁判員の豊富な経験を共有することが不可欠だというふうに述べられています。その点について、なぜなのかということを少し皆さんの取り組みの中で伺いたいのと、冤罪の問題についてここで触れられていまして、刑事裁判の最大の使命は冤罪を防ぐことだというふうに言われております。
 この点で、先ほど、著しく長期にわたる事件を裁判員裁判の対象事件から除外するという今回の法案の点について触れられまして、私、質問したんですが、除外するかどうかを判断する権限を持つのは地方裁判所ですということなんですね。ですから、外すかどうかの審理に国民が参加していないという問題があるんじゃないかということを私、質問の中でしたんですが、先ほどその点についても先生触れられておりましたので、その二つについてまとめて伺えますか。
大城参考人 まず、二つ目の、対象事件、長期のものについてというのは、まさに裁判所だけで判断をするということで、恣意的にもしくは安易に裁判員対象事件が減ってしまうということは、それはやはり、一方で参加を求めておきながら、では対象事件から外しますということに安易になるのは非常によくないと思います。
 その中で、ちょっと、どういう制度で国民の意見をそこに入れていくのかというのは、制度設計がなかなか難しいとは思いますけれども、もしそれが可能であれば、一つの方法として、特に、長期にわたるということについては、どのくらいが長期なのかというのは国民の意見がもちろんあると思いますので、それはやっていただくというのと、現実に今、百日を超える裁判では五、六百人候補者を呼び出しておりますので、候補者の呼び出しの数を多くすれば、その分、何とか御都合をつけて裁判員に従事できる方というのがいるので、ここの運営の仕方一つで全く変わってくると思いますから、ここは極めて運用が大事なところだと思っています。
 もう一点、裁判員の経験の共有がなぜ必要なのかということなんですが、一つは、やはり裁判所というのが、非常に敷居が高く感じる方が多い。裁判所から通知が来ただけで、何だろう、訴えられたのかなと思ってしまうというような中で、では自分が裁判員になったらどういうことをやるのかということもなかなか伝わらないんですね。
 例えば、お昼御飯はどうするのかとか、服装はどうかというようなことが、さっと経験者から聞けば、ああ、それだったら自分でできそうだというふうに思う面もありますし、先ほどお話ししたように、評議の中、もしこういうことが話せたら、今は感想ですけれども、それでも、そういうことが話せることによって、裁判員になったら自分がどういう役割を担うのかということをやった人から具体的に聞ける。次に裁判員になる人にとってこれほど心強いことはないというか、裁判員としてしっかりと職責を果たすための準備という意味でも、その経験を共有していくことというのは極めて大事だというふうに思っています。
    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕
畑野委員 大城参考人にもう少し聞きたいんですけれども、守秘義務の問題について、きのうもそんな議論になったんですが、どこが問題で、どのように変えていく必要があるのかということを、もう少し具体的に、裁判員になられている皆さんの立場でお話しいただければと思うのと、裁判員及び裁判員経験者の心理的負担はどんなものか、多分、最初に言った守秘義務の問題ともかかわってくるんですけれども、その点について少し伺えればと。それと、見直し規定の必要性をおっしゃっているので、この点についてもあわせて伺えますか。
    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕
大城参考人 守秘義務については、今、評議の秘密は守秘義務の対象というふうになっていますので、評議室で裁判官と裁判員が議論したことは全部守秘義務の対象なんですね。公判廷で見たことは、当然、公開の法廷ですから、そこについては守秘義務はないというふうになっていますけれども、裁判員として経験すること、傍聴する人と違うことというのはまさに評議室で経験をしたことですから、今の規定でいくと、実は、裁判員特有の経験というのは全く話せないと言ってもいいと思うんですね。
 そういう形では、では何か自分の体験を伝えようと思ったときに、よかったですよという感想だけ伝えて、それで納得する人もいないでしょうし、伝える側も、やはりもうちょっと具体的に言えれば、これを例えば自分の子供に伝えるとか、もしくは学校でこれから裁判員になられるかもしれない人に自分の経験を地域で話すとか、いろいろなことがあると思うんですね。
 そこの部分で、やはり、評議の中でどういう意見が出たのか、途中で意見がこういうふうに変わりましたと、「十二人の怒れる男たち」という映画がありますけれども、まさに、恐らく評議室でいろいろな議論がされて、議論を尽くした結果、一つの結論に至っていると思うんですけれども、今、私も含めてですけれども、評議室の中で裁判員が入ってどういうふうに議論をしているか全くわからない。そこに新たに裁判員として来てくださいというだけでは、やはりなかなか理解も深まらないでしょうし、行ってきちっと責任を持って自分ができるのか、人の運命を決めることを不安に思う方というのは、世論調査でも非常に多いです。そこの部分への不安を軽減するためには、やはり裁判員自身の経験をしっかり伝えていく。
 そのために、守秘義務の範囲は、まさに裁判員の体験の中核部分の評議というのは、具体的に誰が何を言ったかということまで言うと、後であの人はああいう意見を言っていたというふうに言われて、自由に意見ができなくなるかもしれないので、そこは守秘義務の対象にすべきですし、例えば被害者の個人情報、プライバシーの問題というのもしっかりと守るべきですので、それは守秘義務の対象として当然残すべきだと思っております。
 ただし、どういう意見が出たのかとか、例えば多数決だったのか全員一致なのか、そういう、意見が交わされた経過がわかるもので、どんな意見が出たのかという意見の中身については、話したとしても守秘義務の対象にはならないというふうにすべきだと思っています。
 あとは、見直し規定と、もう一個は何でしたか。(畑野委員「心理的負担」と呼ぶ)
 心理的負担については、いろいろな形で出てきているんですが、例えば、殺人事件で刃物が凶器になった事件を担当した方は、しばらくして、主婦の方なんですけれども、おうちで包丁を使って料理をしているときに、あっ、こういうものでも凶器になるんだと思って、その裁判の様子をフラッシュバックで思い出したと。そういう形でも心理的負担というのは出てくるんですね。
 あとは、これは五十代の男性の話ですけれども、裁判からしばらくたって、ある夜、ふっと起きたときに、あの判決でよかったのかどうかということを考えましたと。
 どこまでを負担というのか。御本人も、負担ではないというふうにおっしゃる場合もあるんですね。でも、それは恐らく、心理学的に見れば、負担を感じているからそういう反応が出ているんですよということもたくさんあるというふうに思っています。
 本当にひどい方になると、それが原因になってお仕事をやめられている方もいます。それは、裁判の経験で不安定になったことによって仕事が続けられなくなってというような連鎖で大変な状況になっている方というのも、数は少ないですけれどもいらっしゃるので、そういう方へのケアというのはやはり手厚くする必要があると思っています。
 見直し規定については、先ほども述べましたが、今言ったような守秘義務の点とか心理的負担の点というのは、今回は改善点の中には具体的には全く入っていないです。さらに今後、そういうものがどういうふうに影響してくるのかというのは時間がたたないとわからない部分もあると思いますので、それはやはり法律の中でしっかりと見直す。裁判所の運用だけではなくて、法改正も伴った見直しというのが必要になるものは、守秘義務も含めて必ずあると思いますので、そういう意味で、今回の見直しの中に、見直しをするという規定を入れていただきたいなというのは強くお願いをしたいところでございます。
畑野委員 最後に、荻野参考人に伺います。
 言い尽くせなかったことがまだまだあると思うので、お話しされなかったことがあれば伺いたいんですが、特に、裁判員裁判をされて、こういう点をもっと改善してほしいという具体的なことなどもありましたら、伺えますでしょうか。
荻野参考人 先ほども少し触れさせていただいたんですが、被告人に対して面と向かっているんです。ちょうど私と、ブルーのネクタイの先生ぐらいのところに犯人が座っているんですね。私、どんなやつだったんだろうとちらっと見ますよね。にらみつけてはいけない。
 それから、娘の遺影はA4で私は常に用意をしていたんです。それはもちろん、参加者の机の上には置けません。どんなちっちゃいものでも置けません。私たちの身内が傍聴席の一番前におりますが、その弟やら妹たちに託そうと思っても、大き過ぎてだめですと言われたんです。だから、このぐらいのちっちゃいもので、ましてや、犯人に見えないようにしてくださいと言われたんです。とにかく、犯人に、私の娘の、自分の殺した相手のことを、プレッシャーを与えないでくださいと言われるんですね。こんなに参加してつらかったことはないです。娘がここにいないから、一緒に参加したいと思ったのに、それが許されなかったというのは、一つ、すごく思います。それは、最高裁は残念ながら開かれなかったので、高裁でもそうでした。
 あとは、質問ですが、やはり私は、犯人に対して面と向かって、びしっと、何で殺したんですかということを聞きたかったです。何で殺したんですか、殺す理由はないでしょうということは本当に聞きたかったんですね。でも、何で殺したんですかというのは、直接的過ぎるからだめやと言われました。
 だから、そんなばかばかしいことを今の日本の裁判はやっているのかと、めちゃくちゃ腹が立ちました。
畑野委員 ありがとうございました。
 三人の参考人の皆さんから、いろいろな課題がまだまだあるということがわかりました。ありがとうございました。