第189回国会 2015年4月24日法務委員会

国民が参加しやすく 「裁判員制度改善を」

 日本共産党の畑野君枝議員は4月24日の衆院法務委員会で、冤罪(えんざい)を許さない立場から裁判員法改定案の問題点をただし、裁判員制度の全面的な見直しと改善を求めました。

 畑野氏が指摘したのは、改定案が「著しく長期にわたる」事件を裁判員裁判から除外するとしている点です。「著しく長期」の基準が不明確で、除外するかどうかを判断するのも職業裁判官になっているとして、「国民参加の機会を奪うことになる。長期間を要する複雑な事案こそ裁判員裁判は実施されるべきだ。除外すれば裁判員の社会常識・市民感覚を反映させられなくなる」と追及しました。

 そのうえで、実際に国民が参加しやすくなる具体的な施策―

(1)選定手続きで裁判員の重要な役割を知らせる

(2)選定後の職務保障の改善・強化

(3)公判前手続き段階での証拠の全面開示

(4)検察官・弁護人双方の体制強化―を提起。

「国民に人を裁くという重責を担う決意を迫った以上、その真摯(しんし)な決意に応えるよう制度的手当て、環境整備をするべきだ」と迫り、制度の抜本的な改善を求めました。 上川陽子法相は「前進・改善ができるよう実態の評価も重ねながら、運用をしっかりとしていくべく努力を重ねたい」と答えました。

( 2015年4月29日(水)「しんぶん赤旗」より )

 

【会議録】

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案について質問いたします。
 一昨日、私は、冤罪事件をテーマにした院内集会に出席いたしました。ここにおられる多くの委員も参加をされておりました。袴田巌さんの事件など、関係者の方々がお見えになりまして、人生を取り戻せないという無念の思い、冤罪はあってはならないということを訴えておられました。関係者の方々から冤罪がつくられていく過程をリアルに伺って、改めて、冤罪を許してはいけないという思いを強く持ちました。
 刑事裁判に国民が参加する裁判員裁判が、無罪推定の原則を貫き、国民の社会常識、市民感覚をよりよく反映させ、事実認定を適正化する制度となるよう、特に冤罪がつくられないよう、制度的に保障することが必要だと考えます。
 上川法務大臣に伺います。
 裁判員制度は国民の参加が大事だと大臣はおっしゃっておられますが、その意義についてどのようにお考えか、伺います。
上川国務大臣 裁判員裁判の意義につきましては、一般の国民の皆さんが裁判の過程に参加をしていくということを通じて、裁判の内容に国民の健全な常識、社会常識、こうしたことがより反映されるようにしていくということ、それによりまして、国民の中で司法に対しての理解、支持が深まり、司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようにするということがこの意義というふうに考えているところでございます。
 今、委員から、幅広い国民の参加が重要ではないかということでございますが、そうした制度趣旨から考えてみましても、裁判員等の選任手続におきましても、できるだけ多くの国民の皆さんに出席をしていただき、できるだけ幅広い層の国民の中から裁判員が選任されていくということが望ましい、その意味での手続が定められているというふうに考えております。
畑野委員 今、上川大臣から、できるだけ多くの国民の皆さんが参加できるようにということが御答弁としてありました。私もそう思います。
 被告人が冤罪を訴えている事件は、本来、裁判員裁判の対象とするべきだと私は思いますが、現行法では、死刑、無期の懲役、無期の禁錮などの法定刑によって対象の範囲を限定しております。
 上川法務大臣に伺いますけれども、法定刑で限定している趣旨はどういうことでしょうか。
上川国務大臣 先ほど裁判員制度の趣旨ということで申し上げたところでございますけれども、国民の皆さんの感覚を裁判に反映させる、さらに司法に対しての国民の皆さんの理解と支持を深めていくということでございまして、こうした趣旨に鑑みますと、国民の皆さんの関心が高くて社会的にも影響が大きい、法定刑の重い重大事件を対象とすることが相当ではないか、そうした観点から対象事件が定められたというふうに考えております。
畑野委員 今、上川大臣がお話しになりましたように、国民の関心が高い重大事件こそ、国民参加が本当に大事になってくる、多くの皆さんに参加してほしいということだったと思います。
 法務省に伺います。
 現在の裁判員裁判において、長期にわたった事件についての典型例の概要を御説明ください。
林政府参考人 これまで実施された裁判員裁判の中で、審判が長期間または多数回に及んだ事案といたしましては、裁判員の職務従事期間が百三十二日、公判期日が二十九回となった神戸地裁における殺人等被告事件や、職務従事期間が百日、公判期日が三十六回となったさいたま地裁における殺人等被告事件、また、職務従事期間が九十七日、公判期日が十九回となったさいたま地裁における組織的犯罪処罰法違反等被告事件、さらには、職務従事期間が七十五日、公判期日が二十回となった鳥取地裁における強盗殺人等被告事件等が挙げられるところでございます。
畑野委員 それでは、今回の裁判員法改正案について伺います。
 先ほどから各委員からありましたが、法案では、著しく長期にわたる事件を裁判員裁判の対象事件から除外するとしております。著しく長期にわたる事件はどのような事件を想定されているのか、著しくというのはどういう基準なのか、伺います。
林政府参考人 裁判員制度の趣旨に照らして、できるだけ広く裁判員裁判を実施すべきであるという観点からしますと、これまで裁判員の参加する合議体で審判することが可能であった事案と同程度の事案につきましては、今後も、通常、裁判員の参加する合議体で取り扱われることとなると考えられます。
 そのため、今回の法律案第三条の二によって除外しようとする事件につきましては、裁判員制度の施行後、現在までには生じたことのない審判期間を要するものとなりまして、こういった事柄の性質上、具体的に審判期間がどの程度になるか、どの程度が著しく長期に当たるかというようなことの基準を示すことは困難でございます。したがいまして、この著しく長期に該当するか否かは、個別具体的な事情に基づきまして、裁判所において判断されるべきこととなります。
 なお、こういった形で、これをどのように認定していくか、除外決定を行うかという観点につきましては、やはり具体的に、法文上、「他の事件における裁判員の選任又は解任の状況、」また「裁判員等選任手続の経過その他の事情を考慮」するとされておりますところから、施行後、当分の間におきましては、実際に裁判員等選任手続を行いまして、その上で、審判期間が長期となる見込みであることを理由として裁判員になることの辞退の申し立てが相次ぎ、必要な員数の裁判員を選任することが困難であると認められるときなどに除外決定を行うことが想定されると考えております。
畑野委員 長い条文をお読みいただきましたが、皆さん、わかりますか。
 確認ですけれども、長期にわたった事件が、最初に御説明ありました百三十日、百日。それは、著しく長期にわたる事件には当たらないわけですね。確認です。
林政府参考人 立案当局といたしましては、これまで可能であった事案と同程度の事案につきましては、今後も通常の裁判員の参加する合議体で取り扱われることになると考えております。
畑野委員 そうすると、今回、著しく長期にわたるということに、これまでの長期にわたる事件が当たらないのはなぜということになりますか、簡単に言うと。確認です。
林政府参考人 今回の法案、法文で、裁判員等選任手続の経過などに鑑みということの考慮事情がございますが、これまでの事案につきましては、実際に裁判員等選任手続を実施いたしまして、裁判員の選任の確保ができた事案でございます。そのようなことから、除外決定という要件には当たらないものと考えております。
畑野委員 まだ起きていないということでございますけれども、本当に、基準も曖昧だと各委員からもあったとおりだと思います。私も思います。
 それでは、裁判員裁判において、著しく長期にわたる事件として除外するかどうかを判断する権限を持つのは誰ですか。
林政府参考人 法律案の規定上、これは地方裁判所とされておりまして、具体的には、当該事件の公判審理を担当する受訴裁判所、訴えを受ける受訴裁判所とは別の裁判官の合議体が判断する権限を持つものでございます。
畑野委員 つまり、結局、裁判所が判断するということですよね。裁判員裁判から除外するかどうかという審理にそもそも国民が参加できていない。おかしいじゃありませんか。
 不明確な基準で、しかも、職業裁判官が裁判員裁判の対象事件を決するということは、大臣もおっしゃられた、国民が参加する、多くの皆さんが参加するという裁判員制度の前提そのものが壊れてしまうということになるんじゃありませんか。
 著しく長期にわたる事件であったとしても、参加できる国民はおります。著しく長期にわたる事件を除外するということは、裁判員裁判への国民参加の機会を奪うことになるんじゃありませんか。いかがですか。
林政府参考人 今回の除外決定をなし得るにつきましては、裁判員等選任手続の経過等さまざまな事情を考慮して、裁判員の選任が困難であるなどと認められる場合でございまして、その要件は厳格なものとなっていると考えております。
 そして、これまで実施された裁判員裁判の中で審判に要する期間が長期にわたった事案と同程度の事案につきましては、通常、裁判員の参加する合議体によって取り扱われるものと考えております。
 こういった形で、法律案で除外の対象となるのは極めて例外的な場合であると考えられます。
 その中で、こういった極めて例外的な場合に限られるわけでございますが、そういった場合に、たまたま、個々の国民においては、裁判員となること、裁判員として裁判に参加したいという希望を持っておられる方も当然存在されると思いますけれども、制度としては、やはり、多くの国民にとって、その事案が、裁判員となることが極めて負い切れないような過重な負担となるような場合に、それを裁判員裁判としてあくまでも実施するということは、裁判員制度導入の趣旨として適切とは言えないと考えております。
畑野委員 誰が参加するか参加しないかというのは、国民みずからが決めるわけですよ。国民参加を、その権利を奪うことになるじゃないかというそもそもの法律の問題、法案の問題を言っているんです、私は。
 このような公判審理に著しく長期間要するような非常に複雑な事案、大事な事案こそ、裁判員裁判は実施されるべきだと思いますよ。だって、著しく長期にわたる事件を裁判所の判断で勝手に裁判員裁判の対象から除外してしまえば、裁判員裁判に期待されている、先ほど大臣も言われた、事実認定などに裁判員が社会常識とか市民感覚を反映させるということができなくなるじゃありませんか。
 私は、裁判員の負担軽減ということについて申し上げたいと思うんです。
 そもそも、裁判員制度を施行したことというのは、人を裁くという重責を担う決意を国民の皆さんに迫ったんですよ、お願いしたわけですよ。一緒にやろうと誓い合ったわけじゃありませんか。このように国民の皆さんに重大な決意を迫った以上、その真摯な決意に応えるように、制度的な手当てをして、環境整備をするのが道理ではないかと思うんです。
 私は、幾つか、こういう改革、改善が必要だと思うので申し上げますけれども、一つは、例えば、裁判員選任手続で、公正迅速な裁判における裁判員等の重要な役割をきちんと知らせるということ。二つ目に、裁判員等に選任された場合、裁判所が主体となった、職場のサポート体制など、職場保障の改善強化をすること。裁判所の周辺に保育所や学童保育を整備すること、今、裁判員ママということにもなるわけですから。また、介護施設を整備することなどですね。それから三つ目に、公判前整理手続段階から検察官手持ち証拠の全面開示をすること。四つ目に、検察官、弁護人双方の体制を強化することなど、できる限り裁判員が裁判に参加できるような体制を構築することによって、今ある問題を解決するべきだと考えるんです。
 最高裁に伺いますけれども、いただいた二〇一三年の最高裁の資料によりますと、辞退が認められた裁判員候補者数の内訳は、事業における重要用務が二七・六%となっておりますね。裁判員等に選任された場合に、裁判所が主体となって、職場のサポート体制など、職場保障の改善強化をするべきではないかと思いますが、いかがですか。
平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
 裁判員等に選ばれた方とその方の職場との個別の関係につきまして、裁判所が主体となって裁判員等の方の職場を保障するためのサポートをすることは、労使関係への介入となるおそれがありますので、行うことができないと考えております。
 もっとも、各地の裁判所におきまして、裁判官が企業等に出向いて説明等を行う出前講義を行っておりまして、一般的に、国民の方々の協力が裁判員制度を支える基本的な要素であり、多くの方に裁判員として裁判に御参加いただくことが前提となる制度であることなどを、実際の裁判員制度の運用状況や裁判員経験者の声等の紹介を交えながら説明するといった取り組みをしておるところでございます。
 裁判所といたしましては、企業の関係者に従業員が裁判員裁判に参加することの意義を御理解いただけるよう、引き続き、こうした広報活動に努めてまいりたいと思っておるところでございます。
畑野委員 できることを本当に全力でやるということを求めたいと思うんです。
 上川法務大臣に伺います。
 四月二十二日のこの委員会で、大臣は、辞退率上昇について各委員が質問されて、環境整備が必要であると答弁されましたが、具体的な対応について伺いたいんです。特に、職場のサポート体制など、職場保障の改善強化についてどのようにお考えになりますか。
上川国務大臣 先ほど、冒頭の御質問にあった、国民の皆さんの一般の感覚を司法の中に生かし切る、この裁判員制度そのものの趣旨ということになりますと、やはり多くの皆さんに御参加をいただくということが何よりも大事なスタートということでございます。
 積極的に御参加いただくということになりますと、裁判員になるという観点の意識を持っていただく、あるいは知識を持っていただくということと同時に、裁判員として送り出す側の企業の皆さんにおきましても、この意義ということについての十分なる御理解をいただくということが大切であるというふうに思っております。その意味では、この間、広報活動についても力を入れてきているところでございますが、まだまださらなる補強をしていかなければいけないというふうに思うところであります。
 裁判員になることの不安の一つとして、仕事と両立をすることができるかどうかというのも、アンケート調査にもそうした御指摘がございました。その意味では、裁判員の仕事をしていただくに当たってお休みをとっていただくということにつきましても、これは法律で認められているところではございますが、さらに法務省のウエブサイトなどにおきましても、さまざまな説明会におきましても十分に御理解いただくようにしてまいりたいというふうに思っておるところでございます。
 また、従業員の皆さんが裁判員の職務を行うために休暇を取得したということを理由にした解雇等の不利益な取り扱いにつきましては、現行法でも禁止をしているということでございますので、こうした面につきましても十分なる徹底を図っていきたい、また、御協力をいただくことができるように環境整備をさらに拡充していきたいというふうに考えているところでございます。
畑野委員 裁判員制度が始まってもう六年になるわけですよね。ですから、本当にこれをやられてきたのかということが、皆さん、問われているというふうに思うんです。
 附帯決議がこの衆議院の法務委員会でも出されてまいりました。二〇〇四年の附帯決議では、「国民の理解を十分に得て、国民が自ら進んで裁判員として刑事裁判に参加してもらえるよう、関係省庁間において的確に連携協力する」とか、それから二〇〇七年には、「国民や企業等に対する周知徹底が十分なされるよう」、さらに「国民が裁判員として刑事裁判に参加しやすくなるよう、刑事裁判の更なる迅速化に向けた工夫を行うほか、有給休暇制度の促進及び保育・介護施設等の環境の整備に努めること。」こういうことが言われてきているわけですよね。
 ですから、こういう点では、上川大臣、きょうの今までの議論も、また皆さんの議論も踏まえてなんですけれども、裁判員法の問題点、こういうふうに変えなくちゃいけないという点はもっともっと検討するべきじゃないかと思うんですが、大臣の御認識はいかがですか。
上川国務大臣 今委員が御指摘いただいたこと、また附帯決議にも盛り込まれているところでございます。こうしたことについても、改善ができるように、今の実態についての評価も重ねながら、運用をしっかりとしていくべく努力を重ねていきたいというふうに思っております。
畑野委員 日本の刑事裁判が自白偏重の裁判の結果、数多くの冤罪が生じて、大きな社会問題になっていることは周知の事実だというふうに思うんです。裁判員裁判は国民が参加して事実認定、量刑を行う制度ですから、国民の理解が得られているということが裁判員制度を運用していく前提だというふうに私は思います。
 この裁判員制度の問題点については、政党だけでなく、日弁連、自由法曹団など法律家団体を初め諸団体やメディアでも、多くの改善すべき提起がされてまいりました。
 現行法の問題点でいえば、対象事件の拡大をする必要があるとか、捜査全過程で録音、録画をすることとか、証拠の全面開示、あるいは守秘義務の限定などなど、たくさんの問題が提起をされているわけです。しかし、今回の法案で対象となったのはわずか四点ですよ、たくさんある中で。しかも、一点目、私はほんの一部だけ質問しましたけれども、これは極めて不当だと私は思います。
 ですから、よりよい裁判員制度にしていくためには、真に国民のための制度にしていくためには、本当に国民の議論がないがしろにされてはいけない。今国会でこの議論がされたということを契機に、全面的に裁判員法を見直していく、そういう議論をするよう私は求めまして、質問を終わります。

 

 

第189回国会 文部科学委員会 第6号
平成二十七年四月二十二日(水曜日)

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 教科書の採択について質問します。
 この四月、中学校教科書の検定結果が公表となりまして、九教科十五種目、百四点の教科書が検定合格となりました。これから、各教科各種目について、どの教科書がいいかを選ぶ教科書採択が八月三十一日までの間に行われます。
 下村文部科学大臣に、教科書採択とはそもそも何のためにあるのかということについて伺います。
 私は、その地域の子供たちが、その教科を学び、成長、発達するために一番ふさわしいもの、端的に言えば、子供にとって一番ふさわしいものを選ぶためにあると考えますが、大臣はどのようにお考えになりますか。
下村国務大臣 我が国の学校現場で用いられている教科書は、民間の教科書発行者の創意工夫により著作、編集が行われているものであり、その意味で、我が国においては多種多様な教科書の発行が想定されているわけであります。
 その中で、教科書採択は、多種多様な教科書の中から、実際に児童生徒の手に渡り、授業等で使用される教科書を決定するものであります。教科書が学校現場において主たる教材として使用されるということを鑑みてみれば、教科書採択の重要性は非常に大きいものがあると思います。
 このため、教科書採択は、御指摘のように、その地域の児童生徒にとって最も適した教科書を採択するという観点から、採択権者である各教育委員会等の権限と責任により、教員や保護者を初めとする調査員による綿密な調査研究を行った上で、適切に行われる必要があると考えます。
畑野委員 教科書採択は、最も適した教科書を児童生徒にということで下村大臣もお認めになったわけでございます。教科書採択は子供のためにと、この精神が根本だというふうに私も思います。
 教育上、子供たちに最も適した教科書を選ぶためにはさまざまなことが必要だと思いますが、中でも、教員のお話がございましたが、教員たちの意見が尊重されることは欠かせないと思います。なぜならば、教員の皆さんは、その教科の専門性を持っておられますし、実際、毎年教科書を使って子供たちの反応や理解度や興味、関心を知る立場にあるからです。
 そこで、ほかの国々ですが、採択権限はどのようになっていますか。
小松政府参考人 諸外国における教科書採択の権限につきましては、もとより、各国の事情によりさまざまなところはあると認識しておりますけれども、私ども文部科学省が調査したところによりますと、例えば米、英、仏、独といった国では、初等中等教育段階につきましては学校が教科書の採択を行う。あるいは韓国では、国定教科書が存在する初等教育段階の一部教科を除きますと学校が採択を行う。中国では、初等中等教育段階においては省や県等の教育行政機関が行う、こういった状況になっていると承知をいたしております。
畑野委員 要するに、教育行政機関だけに採択権限があるのは、調べたところでは日本と中国だけですということでした。ほとんどの国は教員また学校に採択権限があるというふうに、私も文部科学省のもとになった調査を読ませていただきました。イギリスは教師、フランスは教師、フィンランドは学校と教師など、教師というところもあるということです。
 では、国際的な取り決めにはどのように書かれているかということです。日本政府も賛成して採択されたILOとユネスコの教員の地位に関する勧告の六十一項は、教員と教科書採択の関係についてどう述べていますか。
小松政府参考人 お答えいたします。
 昭和四十一年十月五日に教員の地位に関する特別政府間会議において採択されました、教員の地位に関する勧告のパラグラフ六十一というところがそれに当たるかと思います。
 仮訳がございますので、御紹介させていただきます。「教員は、職責の遂行にあたって学問の自由を享受するものとする。教員は、生徒に最も適した教具及び教授法を判断する資格を特に有しているので、教材の選択及び使用、教科書の選択並びに教育方法の適用にあたって、承認された計画のわく内で、かつ、教育当局の援助を得て、主要な役割が与えられるものとする。」こういう記述となっております。
    〔委員長退席、萩生田委員長代理着席〕
畑野委員 教科書の選択について、教員は主要な役割を与えられるべきだとしております。これは教育の条理であり、これが世界の流れだと思います。
 下村文部科学大臣に伺いますが、この項目を尊重すべきだと思いますが、いかがですか。
下村国務大臣 ユネスコによる教員の地位に関する勧告は、教員の地位を高めるため、教育の指導的原則、教育目標及び教育政策、教員養成等につきまして各国に対して共通の目標を示したものであり、条約と異なり、各国を法的に拘束するものではないというふうに承知をしております。
 このため、同勧告の内容については、パラグラフ六十一も含めて尊重されるべきものでありますが、そのための具体的な取り組みについては、我が国の実情や法制に適合した方法で取り組むべきものであるというふうに思います。
畑野委員 そうしますと、六十一項については尊重するということでよろしいですね。
下村国務大臣 我が国におきまして、公立学校の教科書採択の権限は、その学校を所管する教育委員会に属しておりますが、実際の採択は、幅広い意見を反映させるため、通常、教員や保護者を初めとした調査員による調査研究を踏まえた上で行われているわけでございまして、教員の地位に関する勧告とも何ら相反するものではないと考えます。
畑野委員 各項目を尊重されるわけですから、この項目も尊重されるというふうに確認をいたしました。その方向でぜひ制度の改善を図るよう、この際、強く申し上げたいと思います。
 次に、二〇一五年、ことしの四月七日の文部科学省初等中等局長通知、「平成二十八年度使用教科書の採択について」では、綿密な調査研究に基づき、適切に行われる必要があるとしています。綿密な調査研究なしに決めてはいけないという大切な指摘だと思います。
 そこで、教育長と教育委員ですが、全ての教科、教育の専門知識があるわけでもございません。教科書を使って子供に教えたことがないという方もいらっしゃるということです。綿密な調査研究を、国語から音楽、美術、さらに英語まで、総計百四冊の分析を教育委員の皆さんで行うことは、事実上、不可能だと思います。子供と日々向き合っている、専門性のある教員などの綿密な調査研究が必要だと思いますが、いかがですか。
小松政府参考人 教科書採択につきましては、文部科学省として、綿密な調査研究を行った上で、採択権者である教育委員会等の権限と責任において行うよう指導しているところでございます。
 この調査研究に当たりましては、幅広い意見を反映させるために、通常、教員、学校の先生方や保護者の方を初めとした調査員が選任されておりまして、その観点からは、委員御指摘のように、必要な専門性を有し、児童生徒に対して直接指導を行う教員が果たす役割は決して小さくないものというふうに認識いたしております。
 ただし、その調査研究の結果に採択権者の判断や意見が拘束されるようなことになりますと、これは適切ではなく、あくまで、調査研究の結果を踏まえつつ、採択権者が、責任を持って採択する教科書について判断すべきものであることから、採択権者が調査研究の結果を十分に吟味し、審議を行うことが必要であると考えております。
 通知は、この趣旨も含めて、必要なことを記載したものでございます。
畑野委員 要するに、教育委員会では無理なことですよね。ですから、専門性を持つ教員などを含む調査員に綿密な調査研究をしてもらう、さらに、幅広く保護者の皆さんなどの意見も反映する、その調査研究を尊重して熟慮、吟味した上で教育委員会が最終的に決めるということだったと思います。それだけに、教員の皆さんを含む調査員の綿密な調査研究がきちんと行われることが大事だと思います。
 ところが、この調査研究が、一部の自治体では行政から制約を受けまして、調査員の皆さんは、比較検討すれば、この教科書がいい、あの教科書はやや使いづらいなどの優劣の評価を持っているのに、例えば、いい面だけを優劣なしに書くようにというような自治体などが広がっているというふうに伺っております。これで綿密な調査研究と言えるのかということですし、受け取る教育委員の皆さんも困るのではないかと思うんです。
 そこで伺いますが、文部科学省の通知では、調査員たちが、例えば順位づけも含め、評定を行うことは禁じていないと思うのですが、いかがですか。確認したいと思いますので、簡潔にお願いします。
小松政府参考人 お答えいたしますが、前提といたしまして、教科書は主たる教材として学校教育において重要な役割を果たすものであり、その採択は採択権者である教育委員会等の権限と責任により行われるべきであるということ、これは大前提でございます。
 その権限の行使に当たって調査研究を綿密に行っていただくわけでございますけれども、その調査研究の結果として何らかの評定を付し、それも参考に教科書の採択を行うことが不適切だというものではないというふうに考えております。
 いずれにいたしましても、教科書採択に当たって、その権限を持つ教育委員会がみずからの主体的な判断によって最終的に決定されるということが重要だと考えております。
畑野委員 調査員などが教科書について作成する資料は、順位づけを含めて、評定は禁じられていないということを確認いたしました。そこのところ、評定は禁じられていないと。
 教育委員の皆さんは、教科の専門性や授業の経験が全てあるというわけでは基本的にはないわけですから、調査員の皆さんの調査研究を、評定を含めて基本的に信頼、尊重して検討するのが当然の見識だと思います。
 しかし、教育委員会を採択権者としている現行制度のもとでは、残念ながら、調査員が何を言っても、保護者が何を言っても、とにかく自分たちの意中の教科書を採択するということが起こり得るわけです。そういうことをしないで、綿密な調査研究に基づいて、子供たちのための採択が行われるように、私たちも行政も力を合わせていかなければならないと思います。
 次に、昨年六月に法改正され、本年四月より施行されている地方教育行政法との関係を伺います。
 地方教育行政法が変わっても、首長、都道府県知事とか市長とかですね、首長と教育委員会の職務権限に変更はなく、教科書採択は引き続き教育委員会の権限ということですね。簡潔にお答えください。
小松政府参考人 今回、制度が改正されましたけれども、新制度でも教育委員会が従来どおりの職務権限を持つこととされておりまして、首長から独立した教育行政の執行機関として最終的な決定権限を有する点は変わらないところでございます。
 したがいまして、教科書採択に関する首長と教育委員会の職務権限についても、改正前と改正後で変更されておりません。
畑野委員 今御答弁がありましたように、改正された地方教育行政法でも、あくまで教科書について採択権限は教育委員会にあり、首長にはないということです。
 だとすれば、首長が特定の教科書採択を教育委員会に押しつける権限を与えたものではないということでよろしいですね。
小松政府参考人 総合教育会議の制度、首長と教育委員会が相互の連携を図りつつ、より民意を反映した教育行政を推進するために、首長による大綱の策定や総合教育会議の設置について制度化したということの一環でございますので、地教行法改正後の新制度でも、教育委員会は従来どおりの職務権限を持つこととして、首長から独立した教育行政の執行機関として最終的な決定権限を有するということを先ほど御答弁申し上げたところでございます。
 したがいまして、首長は、教科書採択の方針について取り上げることは可能ではございますけれども、独立した執行機関である教育委員会に対し、特定の教科書の採択を求める権限は有しないということになります。
畑野委員 改正された地方教育行政法では総合教育会議が新たに設置されました。そこで首長と教育委員会が所掌事務について調整あるいは協議するとされております。
 今伺ったように、教科書採択には首長の権限は一切ありませんから、調整の対象ではありません。ただ、文部科学省がおっしゃったように、自由な意見交換など、協議はあり得るとされております。
 しかし、幾ら協議といっても、特定の教科書の採択についての協議はすべきではないと思いますが、いかがですか。
小松政府参考人 先ほどの御答弁で、総合教育会議と首長、教育委員会の権限の関係について少し述べさせていただきましたが、教科書採択の方針のような教育委員会のみの権限に属する事項については、首長の権限にかかわらない事項でございますので、調整の対象とはならないということになります。
 協議自体は自由な意見交換が想定されておりますので、そこで取り上げられるということはあり得ますけれども、総合教育会議においては、教育委員会制度を設けた趣旨に鑑みまして、特定の教科書の採択等、特に政治的中立性の要請が高い事項については協議題とするべきではないというふうに考えておりまして、このことについては、昨年七月の改正地教行法の施行通知においてもお示ししているところでございます。
畑野委員 協議題とすべきではないというふうに明確にお答えになられました。
 次に、改正された地方教育行政法では、自治体の教育などの総合的な施策の根本的な方針として、大綱を首長が教育委員会との協議の上定めることとなりました。
 首長が仮に大綱に教科書採択の方針を掲げた場合、その内容がどう考えても特定の教科書のことを指すとしか考えられないようなものであれば、これは適切でないと思いますが、いかがですか。
小松政府参考人 お答え申し上げます。
 大綱は、地方公共団体の教育、学術、文化の振興に関する総合的な施策について、その目標や施策の根本となる方針を定めるというものでございまして、詳細な施策について策定することを求めているものではございません。
 また、大綱は総合教育会議における協議を経て策定されるものでございますけれども、総合教育会議においては、特定の教科書の採択等、特に政治的中立性の要請が高い事項については協議題とするべきではない旨、既に示していることは、先ほど御説明したとおりでございます。
 これらを総合的に勘案いたしますと、大綱に、例えば明らかに特定の教科書会社一社の教科書を採択するとしか解せないような方針を記載するということは、教育委員会制度を設けた趣旨に鑑み、行うべきではないというふうに考えます。
畑野委員 次に、大綱と教育委員会との関係について伺います。
 首長が教科書採択の方針を大綱に掲げた場合、教育委員会に法的な尊重義務は生じますか。
小松政府参考人 新制度では、教育委員会を合議制の執行機関として残しますとともに、その職務権限は変更されていないということでございますので、教科書の取り扱いに関する権限は引き続き教育委員会が有しております。
 また、大綱は総合教育会議における協議を経て策定されるものでございますけれども、教科書採択の方針は、予算や条例提案等の首長の権限にかかわらない事項でございますので、総合教育会議における調整の対象ではございません。
 したがいまして、仮に大綱に教科書採択の方針が記載されたといたしましても、教育委員会は尊重する義務を負う、生ずるということではないものと解されます。
畑野委員 尊重する義務はないというふうに確認をいたしました。
 それに関連して伺いますが、例えば、教育委員会のもとで行われる教科書の調査研究の観点などが大綱により拘束されることはありませんか。
小松政府参考人 教科書採択の調査研究の観点につきましては、これも予算提案等の首長の権限にかかわらない事項でございます。したがって、調整の協議題ということになりませんけれども、教育委員会が適切と判断して、調査研究の観点が大綱に記載されるということも考えられるわけでございます。
 ただし、この場合であっても、教科書の取り扱いに関する権限は従前どおり引き続き教育委員会が有しておりますので、教科書採択は教育委員会の責任と権限において行われることとなります。
 教育委員会の最終的な決定が大綱により拘束されるということはないところでございます。
    〔萩生田委員長代理退席、委員長着席〕
畑野委員 大綱によって規定されることはないということを確認いたしました。
 教科書採択というのは、綿密な調査研究に基づいて適切に行われる必要があるというふうに言われております。首長の定める大綱を尊重すれば、綿密な調査研究を無視する可能性すら出てくる、そんなことが許されれば、子供たちの教科書採択というそもそもの根本目的が否定されることになるので、これはあってはならないということで今御確認をさせていただきました。
 次に、検定にかかわる資料の公表について伺います。
 文部科学省の調査結果を拝見いたしました。都道府県では、採択にかかわる議事録が公開されているのが五九・六%。中学校教科書採択の主な舞台である市町村教育委員会について見ると、議事録の公開が四二・一%と、六割近くは公表されていない状況があります。さらに、採択地区協議会の議事録は公開が二九・〇%、選定委員会の議事録は二九・八%と、低い状況にあります。
 教科書採択という大切な事柄がどう審議されているのかもわからないというのでは、教育行政への信頼にかかわることだと思いますので、誰もが見られるように公表を促していただきたいと思いますが、いかがですか。
小松政府参考人 教科書採択につきましては、採択権者である教育委員会等が、十分な調査研究を踏まえて、その地域の実情に即した教科書を採択することが必要ということでございまして、それとともに、採択権者は、保護者や地域住民の方々に対して、採択の結果や理由等について十分な説明責任を果たし、教科書採択に関する信頼の確保に努める必要があるというふうに私どもとして考えております。
 その一環として、昨年度に改正になりました無償措置法の第十五条等において、採択権者は、採択結果、理由とともに、採択地区協議会の会議の議事録の公表に努めなければならない旨を規定し、施行通知等を通じて、その意義、趣旨の周知に努めてきたところでございます。
 ただ、委員の方からも数字の御指摘等ございましたけれども、これらを見ますと、法改正の趣旨が既に十分に浸透しているとは必ずしも言いがたい状況だと思っております。
 このため、四月七日付の通知におきましては、改めて、教科書の採択に関する情報の公表に努めるよう求めたところでございまして、引き続き、採択権者に対して法改正の趣旨を踏まえた適切な対応を促してまいりたいというふうに考えております。
畑野委員 重ねて最後に申し上げますが、教科書採択は、綿密な調査研究に基づき適切に行われるということで、このことを真面目にやろうと思えば、首長が特定の教科書採択を誘導するような方向を示したり、教育委員会の権限を拘束するような圧力をかけてはならないと思います。そのために大綱などの制度を悪用してはならないということだと思います。そうならないように文部科学省が対応するよう、強く求めます。
 大臣もおっしゃられましたが、教科書は子供のためだということで、その原点を大事にして教科書採択を進めることが重要だということを訴えまして、私の質問を終わります。