第189回国会 2015年4月1日法務委員会

被害者保護の拡充を

畑野氏「船主賠償限度超も」

 日本共産党の畑野君枝議員は1日の衆院法務委員会で、船舶事故の際に船主が支払う損害賠償の限度額を引き上げる船主責任制限法改正案について、被害者保護をよりいっそう拡充すべきだと主張しました。

 同法の改正は、2008年の明石海峡船舶多重衝突事故などを受け、国際海事機関(IMO)で船主の責任限度額を1・51倍に引き上げたことにともなうものです。

 1996年に決められた責任制限額を超える事故は7件あり、それぞれ責任制限額の2~40倍の被害がありました。明石海峡の事故では、漁業関係の被害額は約40億円でしたが、事故に関わったすべての船主の責任限度額は総額約6億円でした。畑野氏は「今回の条約改正、法改正をしても、燃料油流出などによって、限度額を超えることがありうる」と指摘しました。

 畑野氏は、昨年3月の三浦沖の船舶衝突事故による重油流出によって漁業が大打撃を受けていると強調し、「被害者保護を拡充すべきだ」と提起しました。上川陽子法務相は「被害に対してはしっかり救済できるよう、さらに進めたい」と答えました。

(2015年4月3日(金)付け「しんぶん赤旗」より)

 【会議録】

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。
 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律、いわゆる船主責任制限法の改正案について質問をいたします。
 船主責任制限制度は、民事責任の一般原則に従えば全額を賠償しなければならないが、船主の経済的破綻を防ぐために賠償制限が設けられたもので、一方、被害者保護から見れば、船主責任の制限を引き上げることが大事で、物価上昇や大きな海難事故があるたびに責任限度額を引き上げてきたわけです。
 そこで、上川法務大臣に伺います。
 二〇〇八年の明石海峡船舶多重衝突事故や、二〇〇九年のオーストラリアのクイーンズランド州モーレトン岬七海里付近で発生した船舶燃料油流出事故で、大規模な油汚染被害が生じました。国際海事機関、IMOで今回の一・五一倍の引き上げとなったわけですが、仮に一・五一倍に引き上げるということが行われていたとしたら、過去十年間に責任限度額を超過した海難事故の中で全額補償が可能になったのは何件中何件になると言えるのか、伺いたいと思います。
上川国務大臣 御質問の件でございますが、資料が、日本船主責任相互保険組合、いわゆるJPIクラブが発表したものでございますけれども、過去十年間で被害者の損害額が船主責任制限法の責任限度額を超過した海難事故、これは六件ということでございます。うち、現在の為替レートを前提といたしますと、今回の一・五一倍の責任限度額の引き上げによりまして損害全額補償が可能になるのは二件ということでございます。
畑野委員 今、上川大臣から御答弁がございましたが、今回の法改正が適用されるとなれば、今おっしゃられた二件のような事故は全額補償されるということになるということで、少しは改善されるということだと思います。それを前提にしながら、さらに幾つかの点について伺います。
 昨年、二〇一四年三月十八日に三浦沖で事故がございました。パナマ船籍の貨物船ビーグル3、一万二千六百三十トンと韓国船籍コンテナ船、七千四百六トンが衝突をして、貨物船ビーグル3が沈没をし、大量の油流出事故が起こりました。一年がたちました。ビーグル3の乗組員が七人死亡し、二人が行方不明となっているということで、この被害者にしっかり補償がされなければなりません。
 同時に、漁業でも甚大な被害を受けたというふうに思いますが、漁業者の損害や補償はどのようになっているのでしょうか。
    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕
水田政府参考人 お答えいたします。
 昨年三月に三浦沖で発生いたしました外国船衝突沈没事故におきましては、貨物船から重油が流出しまして、千葉県及び神奈川県において、ノリ養殖業、定置網、ヒジキ漁などが操業停止となるなどの漁業被害が発生したところでございます。
 被害額や補償額につきましては、現在も関係者間で交渉中であり、確定していないと聞いております。
 こうした事故のようなケースは、加害者が明らかでありますので、損害賠償により解決されることが基本でございますが、水産庁といたしましても、漁業者の生計にかかわる重大なものだというふうに認識をしているところでございまして、漁業共済を活用いたしまして、漁業被害者への支援を行っているところでございます。
 具体的には、千葉県のノリ養殖業者に対しまして約一千九百万円の共済金が支払われたほか、本日、漁業共済団体から聞いたところでは、さらに千葉県の定置網の漁業者の方に一千三百万円の共済金支払いが行われたところでございまして、これまでのところ、支払われた共済金は約三千二百万円というふうになっているところでございます。
畑野委員 それでは、この事故ですが、船主責任制限額はどうなっていますか。
深山政府参考人 先ほど御説明がありましたとおり、この船舶衝突事故は、七千四百六トンの韓国籍船と一万二千六百三十トンのパナマ籍船との衝突事故でございます。
 このうち、まず、韓国籍船については、既に我が国の裁判所に責任制限の申し立てがされておりまして、申し立て時の為替レートで責任限度額は五億円強と承知しております。
 他方、パナマ籍船については、責任制限の申し立てがされているということはちょっと承知しておりませんけれども、仮に現在の為替レートで計算いたしますと、責任限度額は八億七千万円強になるものと承知しております。
畑野委員 三浦沖の事故では、今後の交渉ということで今わからないということですけれども、しかし、責任制限額よりも甚大な被害が予想されるというふうに思うんです。
 七年前の二〇〇八年、明石海峡で起きた多重衝突事故ですが、ゴールドリーダー号が沈没し、その乗組員三人が死亡、一人が行方不明となりました。そのときの漁業関係の被害額について伺います。
水田政府参考人 お答えいたします。
 御質問いただきました平成二十年の明石海峡の事故でございますが、その漁業関係の被害額につきまして地元の漁業者団体に改めてお聞きしましたところ、総額で約四十億円でございます。その内訳につきましては、ノリ養殖業における被害額が二十四億円、イカナゴ漁など漁船漁業における被害額が約十三億円、防除、清掃作業に要した費用が二億円とのことでございます。
畑野委員 それでは、この明石の事故では責任制限額はどうなっていますか。
深山政府参考人 この明石海峡沖の多重衝突事故は、四百九十六トンの日本船籍の作業船と千四百六十六トンのベリーズ船籍の貨物船、それから二千九百四十八トンの日本船籍のタンカーの三隻の衝突事故でございます。
 それで、これは船の大きさによって責任限度額が違うわけですけれども、全ての船舶につきまして責任制限の申し立てが裁判所にされております。申し立て時の為替レートによる責任限度額は、日本船籍の作業船とベリーズ船籍の貨物船がそれぞれ約一億七千万円、日本船籍のタンカーが少し大きいので二億六千万円弱ということで、三隻の合計をいたしますと約六億円ということになります。
畑野委員 そうしますと、明石の事故での漁業関係の被害でも四十億円の損害、それに対して責任限度額は三隻で六億円ということですから、開きは余りにも大きいというふうに言わざるを得ません。
 それでは、責任制限法で補償されなかった兵庫県漁連の被害に対してはどのような対処がされているのか、そしてまた現地ではどのような影響が及ぼされているのか、把握はされていますか。
水田政府参考人 お答えいたします。
 明石海峡での事故のケースでございますが、責任制限額を被害額が超えたということでございまして、漁業者の方が被害額相当の損害賠償を受けられなかったところでございます。
 水産庁といたしましては、このような事態は漁業者の生計にかかわる重大なものだというふうに認識をしておりまして、明石海峡での事故の際には、漁業共済による共済金約五億円が支払われたところでございまして、こういったことで漁業者への支援を行ったところでございます。
 ただ、当時、この事故で被害を受けた兵庫県のノリ養殖業者の方々は漁業共済の加入率が低くて、また、かつ補償額の低い契約を選択していた漁業者が多かったことから、十分に被害をカバーできなかったところでございます。
 現在では、兵庫県のノリ養殖業者の共済加入率は九割を超えておりまして、補償額の高い契約が選択されているというふうに承知をしております。
 水産庁といたしましては、関係省庁、関係団体と連携しつつ、漁業共済の加入促進の取り組みを進めまして、こうした制度の活用によりまして、漁業者の被害軽減にしっかりと取り組んでいきたいというふうに考えております。
畑野委員 当時、もう本当に廃業せざるを得ないという状況が生まれたわけで、これでは本当に足りないと思うんです。
 二〇〇八年の明石海峡多重衝突事故を受けて、日本がどのような取り組みをしたのかということですが、船主責任制限について引き上げを求めたのかということです。IMO第九十四回法律委員会に対して、どのような対応を求めたのですか。
    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕
櫻井政府参考人 お答え申し上げます。
 二〇〇八年三月の明石事故を受けまして、同年、二〇〇八年の十月に開催されました国際海事機関の第九十四回法律委員会におきまして、日本からは、この明石事故の被害を報告し、世界じゅうで起こった船主責任限度額を超える燃料油の被害実態についてIMOにおいて情報収集をするということを提案いたしました。
 本提案を受けまして、IMOのオブザーバー資格を有します世界的な船主責任保険組合グループが、これはP&Iクラブでございますけれども、調査を行いまして、グループ傘下の保険組合に加入する船舶による燃料油の流出事故は二〇〇〇年から二〇〇九年までに五百九十五件発生していること、そして、この九六年議定書の船主責任限度額を超過するのは七件であるということが二〇〇九年の第九十六回法律委員会及び二〇一〇年の第九十七回法律委員会において報告されております。
畑野委員 その一九九六年議定書の責任限度額を超過する七件の事故、先ほども少しお話がありましたが、船名と事故発生国、当該事故の被害額の責任限度額に対する割合について、それぞれ伺います。
櫻井政府参考人 お答え申し上げます。
 七件のものについて、古い順に御説明いたします。
 一件目は、ブラジルで起きましたビクーニャ号という事件がございます。御指摘の被害額の責任限度額に対する割合は約四倍でございます。
 二件目は、ベネズエラで起きましたマースク・ホリーヘッド号の事故で、責任限度額に対する割合は約三倍の被害額でございました。
 三件目は、日本で起きましたクサン号の事件で、割合は約二倍でございました。
 四件目は、ノルウェーで起きましたサーバー号の事件で、被害額は約三倍でございました。
 そして五件目は、ギリシャで起きましたシーダイヤモンド号の事件でございます。これは、被害額の割合は約三倍でございます。
 六件目は、スペインで起きましたドン・ペドロ号の事件でございまして、限度額に対する割合は約二倍でございます。
 七件目は、二〇〇八年に明石で起きたゴールドリーダー号の事故でございまして、そのときの被害額についてはちょっと幅がございましたけれども、割合は約三十倍から四十倍ということで報告されてございます。
畑野委員 そうしますと、このゴールドリーダー号が三十倍から四十倍と、突出して高いわけですね。ですから、この調査の結果は本法案で引き上げられる一・五一倍を上回っているということです。
 そこで、伺いますが、過去十年間で責任限度額を超過した海難事故、P&I保険加入という調査資料によると、今回一・五一倍の改正をしても、責任限度額が損害額を上回っているのは川崎で発生したC号とA号だけで、明石の事故を含め、六隻中四隻は損害額よりも責任限度額が下回っているというふうになっておりますが、そのとおりでよろしいですか。
深山政府参考人 先ほど法務大臣からも御説明したとおり、現在の為替レートを前提といたしますと、今御指摘があったとおり、今回の一・五一倍の責任限度額の引き上げによって損害全額の補償が可能になるのが二件、明石沖の事件も含むその余の四件については責任限度額を上回る計算に相変わらずなってしまう、こういうことでございます。
畑野委員 ですから、今回の条約改正に基づく法改正をしても、まだ、燃料油流出によって被害をこうむった場合に制限額を超えることがあり得るということは明白です。
 国土交通省に伺いますが、明石の事故の翌年の二〇〇九年に、我が党の穀田議員が、明石の事故で被害が甚大で、何ら責任のない漁業者を泣き寝入りさせないようにという質問を行いましたが、その後の対応はいかがですか。
櫻井政府参考人 お答え申し上げます。
 二〇〇九年六月の衆議院の国土交通委員会におきまして、穀田先生から、責任制限があって被害に対し十分に補償し得ない、こういう点を見直すべきだという趣旨の御質問をいただきました。
 これに対しまして、海事局より、始まったばかりのIMOでの議論をリードして、国際的な枠組みの構築に努めてまいりますとお答えしております。この時点におきまして、先ほど御答弁申し上げました、どれだけ大きい被害の事故が出ているのかを国際的にしっかり調査しようということをIMOに対して言っておりまして、それを踏まえまして、始まったばかりのIMOの議論をリードするというお話をさせていただきました。
 そして、さらに具体的に、二〇〇九年の十一月、本日の委員会でもお取り上げでございますけれども、国土交通省におきましては、関係省庁及び有識者から成ります船舶燃料油被害の補償制度に関する検討会というものを開催いたしまして、検討してまいりました。
 そして、被害者の救済の方策につきましては、繰り返しでございますけれども、船主責任制限条約の簡易改正手続による責任限度額の引き上げ、これは今回の改正でございますけれども、この方策のほか、船主責任制限条約の全面改正、バンカー条約において燃料油被害に特化した責任限度額の設定、そして、国内及び国際的な基金制度の創設も含む複数の補償制度について検討いたしました。
 本日も委員会で御指摘ございましたように、油タンカーには荷主である油の受取人を拠出者とする国際油濁補償基金に基づく補償制度があることを踏まえまして、船舶の燃料油の被害に対する基金制度の創設について検討したわけでございますけれども、タンカーの場合におきます油の受取人といったような拠出を求める者の検討につきましては、負担を正当化し、負担を義務化するには十分な理由に乏しいということで、基金創設は困難との結論にその時点では至っております。
 ただ、そのとき、同時に、先ほど申し上げました被害の実態ということを踏まえまして、国際海事機関におきましては、条約の簡易改正手続に基づく責任限度額の改正に絞って検討するといったことがございましたので、我が国は確実にこの改正の動きがまとまり、責任限度額が引き上げられるように調整を進め、今次改正が実現したところでございます。
 私ども、海運業の国際性に鑑みれば、補償制度の創設も国際的枠組みとして取り組むことを前提とすべきと考えております。
 現在のところ、今次責任限度額の引き上げ改正の採択以降、IMOに対しまして新たな責任限度額を超える事故被害の報告はありません。
 ただ、燃料油による被害の額が責任限度額を超える場合における被害者の救済はなお重要な課題であると認識しておりますので、本日も御議論いただきましたけれども、関係省庁ともしっかりと協力をし、また、IMOにおきます、国際的な事故の動向や加盟国の制度改正の考え方について情報収集を進め、適切に対応してまいりたいと思っております。
畑野委員 関係省庁が本当にこのことに真剣に取り組んでやる必要があると思うんですね。
 私は、昨年の三浦沖の事故の直後に、神奈川県三浦市にも伺いました。その岩場では、重油が確認できまして、それをすくうと本当に強いにおいが鼻をつきました。地元の漁協は、ヒジキ漁は中止です、油の漏出を広げないように緊急に対策を打ってほしいと。この事故の前にとったものも、やはり風評被害など含めて大変な事態になったわけです。
 それから、千葉県の富津市からは、やはり、漏出をとめるための費用をどこが持つのかがはっきりしないから本当におくれてしまう、これは何とかならないのかという問題が指摘されて、地元の漁協からも、二週間以上漁に出られないと。定置網の話がありましたけれども、そのお金も物すごくかかると。
 その補償が今論争になるわけですけれども、出るまで生活費をどうするんだ、国に本当に要望したいという声が当時出されたわけです。
 そこで、上川大臣に伺いますけれども、今、船舶の巨大化や高速化で、油濁の拡大や船の残骸撤去の重大性というのは増しております。そして、きょうお話しした三浦沖やあるいは明石海峡の事故によって、被害者の方々は本当に苦労をされています。そういう点で、被害者の保護を、あらゆる知恵も集めて日本で拡充すべきだというふうに思いますけれども、上川大臣の御認識はいかがでしょうか。
上川国務大臣 ただいま委員から、具体的な海難事故に関する御質問をいただきました。また、今後、船舶が大型化する、あるいは高速化する、いろいろな進歩がありまして、海難事故につきましてもしっかりと取り組んでいくということについての問いがございました。
 今回、改正をお願いしているところでございます、責任限度額の引き上げをお願いしているわけでありますが、その引き上げが仮になされた後におきましても、漁業被害等の額が責任限度額を超える場合というのが生じてくるということにつきましては、先ほど来のお話のとおりであるということでございます。
 先ほど来、国土交通省、また水産庁の方から、今どういう形で取り組んでいるのか、また、これからどう取り組むのかというお話がございましたけれども、法務省といたしましても、この法律の所掌ということでございますし、また、そうしたこれまでの事件、事故、さらにそれに対しての国際的な動きということもございますので、そういったことをしっかりと踏まえた上で、被害に対してはしっかりと救済ができるように、さらに進めてまいりたいというふうに思っております。
畑野委員 今、上川大臣から、被害については本当にしっかり救済していくようにしていきたいというふうにおっしゃっていただきました。
 オーストラリアは、IMOに、当初、二・三倍の引き上げを提案いたしました。オーストラリアのような環境重視国は、海難事故に対して汚染者負担の原則を第一義的に位置づけております。
 日本の漁業でいえば、海面を使ったノリや養殖を初めとして、被害が広く及び、甚大になるわけですから、その対策、そして被害者保護をしっかりと行う、このことを重ねて強く求めて、私の質問を終わります。