2016年12月22日(木)
中央教育審議会(北山禎介会長)は21日、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」の答申をまとめ、松野博一文部科学相に提出しました。「新しい時代に必要となる資質・能力」を新たに規定し、その「育成」のために学習内容や指導方法、学習評価の仕方を細かく例示し、教育現場を縛ろうとしています。
答申は「育成を目指す資質・能力」を、(1)知識・技能(2)思考力・判断力・表現力等(3)学びにむかう力、人間性等―の三つに整理。学習評価をその三つの観点で行わせるため、指導要領に加えるとしました。
「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点)」を打ち出しましたが、「指導の型をなぞるだけ」など先行実施での混乱をうけ、「特定の指導方法のことでは…ない」としています。
また「カリキュラム・マネジメント」(教育課程管理)を強調し、学校・教員が指導要領に基づいた学校目標をたて、実施・評価・改善を行うことを求めました。
その一方、「学習内容の削減を行うことは適当ではない」とし、学習内容の精選を否定。小学校英語の3年生から実施、5・6年生の教科化による授業時数増、高校での「公共」新設など科目の再編を打ち出しました。
文科省は、1月下旬から2月初旬に小中学校の学習指導要領改定案を示し、今年度内に官報告示を予定。小学校2020年から、中学校21年度から全面実施し、高校で22年度から年次進行で実施されます。
今日の課題に応えぬ
共産党国会議員団文部科学部会 畑野部会長が談話
中央教育審議会が21日にまとめた学習指導要領改訂への答申について、同日、日本共産党国会議員団の畑野君枝文部科学部会長が談話を発表しました。
一、全国の学校教育に大きな影響を与える学習指導要領を9年ぶりに全面改訂する中教審答申が出されました。しかし、学力格差や勉強嫌い、「いじめ」の広がりなど今日の課題に応えるものとはなっていません。
一、とくに答申がはじめて「資質・能力」なるものを詳細にかかげ、その育成を子ども一人ひとりに求めるとしたことは重大です。国が「資質・能力」を一方的に決め、政府・財界が求める「グローバル人材」養成に一面化して子どもに押しつければ、子どもの成長・発達に深刻なゆがみをもたらします。また学問的に論争のある「資質・能力」の強調は、肝心の「何を教えるか」や子どもとの柔軟な関係が二の次となり、授業が劣化しかねません。こうした方向はやめ、教育内容を精選し、子どもたちが豊かに学べるようにすべきです。
一、答申は「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点)」をうちだしました。暗記型でない豊かな学びのためには、教材研究の時間もない教員の「多忙化」を解消し、教員の自主性を広く認めるべきです。点数対策に教員を追い立てている全国学力テストや特定の教育方法の強制はやめるべきです。
一、答申が、専門家がつよく批判している英語教育の改変とそれに伴う小学校の授業時数増、「個人の尊重」という憲法の根本原理を無視した高校「公共」の新設などを打ち出したことも問題です。
一、そもそも憲法は、政府にたいし教育内容への関与をできる限り抑制することを求めています。答申のように教育現場への管理統制をさらに強めることはすべきでありません。一人ひとりの子どもの「人格の完成」という教育の本来の目的にたって、自主的な授業づくり・学校づくりの共同を広げることを呼びかけます。
解説
背景に安倍流“人づくり”
「学習内容」から「育成を目指す資質・能力」へ軸足を移し、学習指導要領の枠組みを変える――今回の答申の背景には、安倍政権の“人づくり”政策があります。
「答申」がかかげた「資質・能力」の三要素は、2006年の教育基本法改悪をうけ、07年に改正された学校教育法第30条の「学力の三要素」にほぼ対応しています。教育基本法には「国を愛する態度」など20項目の徳目があり、それらが「資質・能力」に反映していく可能性もあります。
「学習内容」には一定の学問的基盤があり変化が難しい面があります。「資質・能力」に軸足をおけば、「こんな資質・能力が必要だから」と支配層に都合のいい学習にしやすくなります。
同時に、「資質・能力」教育が国際的潮流となっていることに注意が必要です。答申もOECD(経済協力開発機構)が提唱する資質・能力(コンピテンシー)概念やアメリカの「21世紀型スキル」などを援用していますが、それらはグローバル資本が利潤拡大のため必要とする人間像という側面があります。
安倍政権は、「戦争する国」や「世界で一番企業が活躍しやすい国」を支える人づくりを教育に求め、教育への統制を強めてきました。「答申」は「社会に開かれた教育課程」と言いますが、その「社会」とは何か。教育を政財界に従属させてはなりません。
(教育問題取材班)