2011年8月25日 日本共産党神奈川県委員会

東京電力福島第1原子力発電所の事故は、炉心溶融に至る史上最大級の事故となり、今なお被害が拡大し続けています。避難指示や「自主避難」によって、約10万人もの人びとが、いつ戻れるかわからない避難生活を強いられています。放射能汚染は、校庭・園庭の土壌、水道水、牧草、農産物、水産物、肉牛などに被害を及ぼし、神奈川県内でも「足柄茶」が出荷停止に追い込まれ、下水処理場の汚泥から放射性物質が検出されるなど、被害が広がっています。いま、日本と世界で原発に依存した政策をこのまま続けていいのか、原発からの撤退をめざす世論と運動が広がっています。

この原発事故は、神奈川と無関係ではありません。

それは、神奈川では大都市で唯一、原子炉2基をもつ原子力空母の母港を、横須賀米軍基地にかかえているからに他なりません。

原子力空母ジョージ・ワシントンは、熱出力60万キロワット、電気出力に換算して20万キロワットの原子炉2基を搭載し、その出力は福島原子力発電所1号炉(46万キロワット)の出力に匹敵します。

横須賀港には、年間150日以上、横須賀港にとどまる原子力空母ジョージ・ワシントンや多くの原子力潜水艦が出入港し、年間300日以上にわたって停泊するなど文字どおり原子力艦船の母港となっています。

原子力空母の原子炉は、炉内で核分裂反応をおこし、その熱で水蒸気をつくってタービンを回し航行するものです。原子力発電所の原子炉も、核分裂反応の熱でつくった水蒸気でタービンを回し発電させるもので、原理は全く同じです。原子力発電用の原子炉は、もともとアメリカ海軍が潜水艦の動力用に開発した原子炉を転用したものです。福島原発の大事故で、原発の「安全神話」が崩壊したいま、その出発点となった海軍原子炉そのものの安全性が根本から問われています。

私たちは今日、福島原発事故の実態をふまえ、原子力空母の危険性について、真摯に考えるべきときだと考えます。

〔1〕大地震の震源域の真上を母港とする原子力空母の危険

clip_image001その第1は、原子力空母の母港、横須賀港が神奈川・三浦半島で想定されている大地震の震源域の真上にあるということです。

いま、神奈川県内に被害を及ぼす地震が7つ想定され、そのうち東海地震、三浦半島断層群の地震など5つが切迫性の高いものとされています(「神奈川県地域防災戦略」2010年3月)。

なかでも、横須賀港を震源域にふくんでいる地震は、三浦半島断層群の地震と1923年の関東大震災をおこした地震の再来型である南関東地震の2つです。

三浦半島断層群(主部・武山断層帯)の地震はM7.2、30年以内に発生する確率が6~11%、日本で5番目に高く、これが今回の東日本大震災の地震でより発生確率が高まった可能性があるとされています。

横須賀での震度想定は、東京湾側で震度7、相模湾側で震度6強。最後の地震発生から約2300年から1900年たっており、活動間隔が1600年から1900年のこの活断層はいつ地震を発生させてもおかしくない時期に入っているとされています(文部科学省地震調査研究推進本部「主要活断層の長期評価の概要」など)。

この三浦半島断層群を震源とする直下型地震が発生すると、港湾区域は全域が震度7の激震にみまわれ、海岸線の地盤は液状化が想定されます。

もうひとつ、M7.9の南関東地震が起きた場合、横須賀は全域で震度7、海岸沿いで液状化の可能性がかなり高く、津波は2mと想定されています。

地盤隆起と引き波による艦船の着底の危険

ひとつ目の危険は、地震による地盤の隆起と津波による引き波で、係留している艦船が海底に着底し、乗り上げ、座礁、転覆する危険です。

関東大震災の地震のときには、猿島で0.8メートル、久里浜で1.5メートルの隆起がありました。津波は、1703年の元禄地震(相模トラフ沿いのプレート境界で発生)のとき、横須賀で3メートル。2009年3月の神奈川県被害想定調査では、元禄型地震が起きたとき、津波が3メートル、引き波による水深はマイナス4.6メートルと想定されています。

ジョージ・ワシントンの喫水は12メートル、浚渫による水深が15メートルなので、その差は3メートルしかなく、隆起のうえに、4メートルもの引き波があれば、明らかに着底する危険が生じます。

現実に今回3月11日には、ヴェルニー公園の前の海では、目撃者が「海底が見えた」と報告しています。また、当時、定期修理のため横須賀基地に停泊していたジョージ・ワシントンの乗組員は、「大きな揺れの後、直ぐに水位線をチェックした。水位は6フィート(183㎝)下がっていた」「揺れは非常に強くて船を埠頭岸壁から離すほどだった」「まるで一つの街がぐるぐる回っているようだった」と語っているほどです(「星条旗新聞」3月11日付)。

ジョージ・ワシントンが着底することで起きることは、冷却用の海水を取り込むことができなくなり、原子炉が冷却不能に陥ることです。実際に、同型艦のステニスが座礁し、原子炉を緊急停止した事故が米本国で起こっています。

関東大震災のときは、横須賀軍港で戦艦「三笠」が激震によって、艦底部が大損傷し、浸水しました。建造中で進水直前だった巡洋戦艦「天城」(43,000トン)は、地盤陥没で竜骨が曲がり、大破し廃艦となりました。箱崎の重油タンク群が破壊されて、大量の重油に火がつき、港内に流れ込んで港内は火の海となり、完全な鎮火に3ヵ月を要したとされています(『関東大地震と横須賀軍港』)。

外部電源と純水供給の機能喪失の危険

ふたつ目の危険は、ジョージ・ワシントンが停泊する12号バースの近くに設置されている外部電源・ガスタービン発電施設と純水供給施設が、地震と津波によって、破壊され機能喪失することで原子炉を冷却できなくなる危険です。

空母が必要とするこの2つの施設の地盤自体が埋立地にあり、液状化が予想されています。耐震基準をクリアーしているといっても、原発で実際の地震動が設計をこえた例はいくらでもあります。津波にたいしても耐えられるかどうか、確証がありません。

〔2〕日常的な放射能汚染の危険

第2の問題は、原子力空母など原子力艦船の重大事故による放射能汚染の被害は、想像を絶するものがあることです。

原子力資料情報室(NPO法人)が2006年におこなった被害予測では、ジョージ・ワシントンと同等のニミッツ級空母が、横須賀構内でメルトダウン(炉心溶融)の事故を起こした場合、7シーベルトの全身被曝を全数致死線量とすると、空母から風下の8キロメートルまでの範囲に及ぶこと、60キロ圏でも急性障害発症相当レベルの被曝をする範囲に入ります。

これらは決して、「想定外」のことではありません。実際、神奈川・横須賀が日常的な放射能汚染の危険にさらされています。

その一つは、横須賀港で放射性物質の異常値が繰り返し示されているにもかかわらず、米軍と日本政府はいっさいこれを原子力艦船によるものであることを隠し続けていることです。1966年、米原潜スヌークが入港中、2回も異常放射能を測定、これをレーダーの影響としました。1974年には放射能調査データのねつ造が明らかになり、1996年には原潜カメハメハと原潜トピカ、1998年には原潜トピカと原潜バットフィッシュが停泊中に異常放射能が検出され、2006年には原潜ホノルルが出港したさいには、自然界には存在しないコバルト58、コバルト60が検出されました。このときは、「原子力潜水艦由来であることは否定できないものの、ホノルル由来とは断定できない。ただし、原子炉、冷却系の事故、トラブルに起因して放出したものではなく、ごく微量であり、環境、人体に影響を与えるような数値ではない」などと、米軍も日本政府もごまかし続けてきています。

この背景には、寄港中に一次冷却水の放出は例外的にありうるという1968年の日米間の密約の存在があることが明らかになっています。

このほかにも、ジョージ・ワシントンの定期修理でつくり出された放射性廃棄物を、日米間の覚書(エードメモワール)では「艦外に出さない」となっているにもかかわらず、毎年、横須賀港に停泊中のジョージ・ワシントンから輸送船への積み出しがおこなわれています。また、東日本大震災の被災地支援に関連した放射性廃棄物が米海軍の横須賀基地(横須賀市)、厚木基地(大和・綾瀬両市)、海上自衛隊横須賀基地(横須賀市)に保管され続けていることも明らかになりました。

〔3〕戦争のための空母の原子炉そのものの危険

第3は、戦争をするために建造された空母の原子炉そのものに危険があることです。

もともと、日本のすべての原子力発電所は、アメリカ海軍が開発した「軽水炉」型の原子炉をアメリカから導入しています。この原子炉は、①軽水炉型の原子炉の構造が本質的に不安定で、水の供給が止まればメルトダウンを起こす、②大量の核分裂生成物(いわゆる「死の灰」)を生み出し、これを処理することができないでいるという二つ点で、大きな弱点を抱える「本質的に未完成の技術」であり、原子力空母など軍事用の原子炉が「未完成の技術」ではないという保証はまったくありません。

アメリカの反核平和団体がまとめた「空母:原子力の制約」(1994年)は、「原子力艦艦船は、40年間核廃棄物を放出しつづけているのに、米海軍はいまだ恒久的な処理場をもっていない」と指摘しています。現在も、米国内には、これは存在しません。

しかも、これらが軍事用の原子炉であることから生じる危険が3つあります。

その第1は、狭い艦内に設置するため、炉心の設計に余裕がなく、放射能をふせぐための構造も余裕がないこと。海軍用原子炉は高濃縮ウラン(原爆と同じ97%のウラン235。商業発電用は2~6%程度)を使うため、制御に失敗すれば暴走事故(反応度事故)を起こす可能性が商業発電用より高くなります。また、20年以上も燃料交換しないことは、それだけ多くの「死の灰」をかかえたまま航行することになり、危険が高まります。

第2に、空母が絶えず波のゆれにさらされ、艦載機の離発着の衝撃にさらされていることが原子炉の金属疲労を早めています。また、日本の原発上空では航空機の飛行が規制されているのに、原子力空母では、いわば原発めがけて戦闘機が飛んでくることになります。

第3に、原子炉は出力の上げ下げのときに異常を生む危険性が高いとされ、軍事作戦が優先される原子力空母は、無理な出力調整を余儀なくされます。軍事用は1分間で100%に、民生用は3日かけて100%に出力を上げるとされています。

米原子力艦船は日本の規制と監視が及ばない無法状態

米原子力艦船の原子炉には日本政府の規制と監視がいっさい及ばず、無法状態にあることです。「軍事の論理」が安全に優先されるからです。

これまで多くの原子力艦船が事故を起こしてきたにもかかわらず、隠され続けてきたのは、米軍の原子力艦船が徹底した秘密のベールに覆われているからです。

隠され続けた事故

clip_image0022006年4月に米国政府が発表した「ファクトシート」(情報資料)で、「50年以上、一度たりとも原子炉事故や放射能汚染を起こしたことはない」などとのべていることにたいしても、真っ赤なうそであることを追及してきました。

原子炉のメルトダウンにつながる事故、原子力潜水艦の沈没事故、原子力空母の座礁や深刻な火災などが繰り返されています。

根拠もなく、「事故は起こらない」ということは、「安全神話」の押しつけにほかなりません。

「事故が一度もない」のではなく、「事故を一度も発表してこなかった」のがことの真相です。

〔4〕安心・安全のためには原子力空母の撤退、母港の撤回しかない

このように原子力空母ジョージ・ワシントンを人口密集地、首都圏の入り口で配備し続けることの危険性はいよいよ明らかです。

原発の立地指針では、地震の危険の高いところや人口密集地には原発は立地できないことになっています。浜岡原発は、地震の危険の高いことから停止に追い込まれました。

横須賀を原子力空母が母港とすることにより生じている危険をとりのぞく方法は、ただひとつ、原子力空母の横須賀からの撤退、母港の撤回しかありません。日本共産党神奈川県委員会は、神奈川県民と首都圏3,000万人を原子力災害の危険から守るために、あらためて原子力空母と原子力潜水艦の横須賀母港撤回を提言するものです。

そして、原子力艦船の横須賀母港撤回の一点で、県民が大きな共同をつくり、力を合わせることを訴えるものです。

なきに等しい原子力艦船事故への備えの現状をあらため、万全の体制を

神奈川県は、「原子力災害対策計画」のなかに「原子力艦に係る事故災害対策」を盛り込んでいます。しかし、あるのは「応急対策活動及び復旧」のみで「発生の防止」の部分がありません。情報伝達体制の充実強化をいいながら、米軍から県、市へどういう場合に事故を通報するかの基準がありません。核燃料加工施設である横須賀市内のグローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパンなど県内の原子力施設には「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲」(「緊急時計画区域」、EPZ(Emergency Planning Zone)を定めているのに、原子力艦船にはありません。原子力施設事業者の防災業務計画の提出、報告と立ち入り検査、指導などが定められているのに、原子力艦船にいっさいこれらがありません。

このように原子力艦船について、万一への備えはなきに等しいものです。「軍事機密」の名のもとに、人間の放射能汚染の危険をないがしろにしていいのでしょうか。

日本共産党は、原子力艦船の母港撤回を求めていますが、現実に配備されている以上、安全対策と事故に備えた体制を強く求めるものです。

①米軍からの事故の通報基準を定め、通報を義務化すること。②国内の原子力事業者に義務づけている防災業務計画の提出と協議、報告と立ち入り検査、指導などを原子力艦船にも適用すること。③周辺住民への迅速な情報伝達手段の確保、緊急時モニタリング、資機材の整備、屋内退避・避難等の方法の周知、避難経路・場所の明示などの「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲」(EPZ)について、原子力艦船についても「神奈川県原子力災害対策計画」のなかに明示すること。④最悪の事故を想定しての避難訓練を実施すること、などが必要です。

原発からの撤退へ―母港撤回はその大事な一翼

原子力艦船の母港撤回のたたかいは、第1に全国でまきおこっている「原発からの撤退」の世論と運動の大きな一翼をになうものです。日本全国で原発から撤退し、同時に横須賀から原子力艦船を撤退させてこそ、真に日本からの原発の撤退を完成させることができます。

第2に、神奈川県民、首都圏3000万人を原子力事故から守るたたかいであることです。

第3に、侵略と戦争の出撃拠点の港湾から、平和の港湾への転換、それは軍事同盟を解消し、紛争の平和的解決をめざす21世紀の世界の流れとも合致するものです。そして核も基地も爆音も米兵犯罪もない平和な神奈川実現への大きな1歩を踏み出すたたかいでもあります。

世界で唯一の原子力空母の海外母港をかかえる横須賀、神奈川で、「原発からの撤退」の急速な広がりと手をたずさえ、世論と運動を強めれば、原子力艦船の母港撤回は可能です。

日本共産党は、原子力災害から県民を守るため全力をあげる決意です。

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写真提供:しんぶん赤旗
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